Ep12;仕事、仕事、仕事
今日から更新再開。(*^^)v
更新停滞の理由は一応活動報告にあります。
突如現れた門から逆さで一気に落ちて、頭部を強く地面に打ちつけたアキラ殿。一体召喚場で何が……
「ど、どうしたのですか……! アキラ殿……!」
私─────アイリスは、動転してそれくらいしか言葉が浮かばない。
門の魔術は、通常自分で転移先を決めてどのような方向で現れるかが決定できるため、こんな事は起きないはずですが、彼は如何したというのでしょう?
「痛ぅぅー。いや、大丈夫。それよりアイリさん。もしかして待たせた?」
頭を押さえつつも、自らの力で起き上がるアキラ殿。何かブツブツ言っていますが、本当に何が有ったのでしょう?
それから放った言葉は、私がアキラ殿を待ったかと言うモノ。待ったと言えば、待った事になるのでしょう。
私は稽古の後に浴場で汗を流してから、ずっとここに居るのですから。
「えっと……、待っていませんよ」
ですがそれを素直に言ってしまっては、アキラ殿の立つ瀬が有りません。
私は笑顔で誤魔化します。
正直、男性に自分からお願いして時間を作ると言うの事は今まで無かったので、緊張して居るなんて事は知られたくありません。
恥ずかしい。
◆ ◇ ◆
いきなり逆さで落とすのはどうかと思うぞ。リン。
なんて事を小さく呟きながら、俺は起き上がる。さっきの話は、一端頭の隅に追いやろう。アイリさんに失礼だ。
ここ一週間のアイリさんとの稽古と、ギルドでの力仕事が効いているらしい。頭の痛みはそこまできつくは無い。それよりも、
「痛ぅぅー。いや、大丈夫。それよりアイリさん。もしかして待たせた?」
女性を待たせるとどうなるか、真夕美に身を以って教えられているため、初めの発言はこれにする。あの時の剣幕は凄かった。なんてったて俺のなけなしの金が全部アイスでパァだった。あれ? 何でだろう、眼の前の光景が滲んできたな。
きつくは無いと言っても、痛いもんは痛いので頭は庇っている。今度治癒の魔術を誰かに教えてもらおうかな。
「えっと……、待っていませんよ」
少し俯いて、いきなり笑顔に変わるアイリさん。それはまるで、直前まで俯いていた蕾が朝日と共に一気に花開いたアサガオのよう。
嗚呼、その顔は反則だ。何で赤面してるのさ。俺の心臓を起爆させる気か?
少しだけそんな事を考えて、直後俺は頭を振って思考を振り払う。
「アイリさん。それで俺に、何の用なの? その格好じゃ、稽古って訳ではないだろうし……」
不安に思いつつも質問する。
アイリさんの服装は、どこか遠出でもするようなモノだ。下は膝丈くらいの青いミニスカート。上はほんの少し装飾の施された真っ白のシャツ。あぁッ、なんて眩しぃんだ。
最初に会った時の青色のドレスとは少し違い、これはどこかスマートな感じの服装だ。
「えっと、あの……私のお友達に会いに行くので、護衛を頼みたくて……」
もじもじしながらも、「お願いします」と呟くアイリさん。だからそれ反則。
「……そ、そうなんだ。何処まで?」
「良いんですか?」
俺の反応に、上目づかいで効いてくるアイリさん。ちょ、おまっ……
顔に血が上って来ているのが自分でもわかる。
「あ、あぁ。良いよ」
どこかから『フンッ』と言う声が聞こえた気がしたが、空耳だろう。
「良かった。行先は隣町のノエリア。
其処までには大盗賊団が出ると聞いていましたので、私一人では行くのは危険ですし、第二王女とはいえ私の上には四人もいますから近衛以外は動かせませんし……」
彼女の近衛は、彼女が戦闘に熱を入れている所為か、王から回された人には基本的に内政型の人間が多い。
王様はどうにかして彼女をお淑やかにしたかったのだろう。現在の彼女の状況からその努力の程がうかがえる。兄や姉は大抵が肉体派で、彼女くらいは内政の手伝いが出来るようになって欲しかったのだろうか。
まぁそんな王様の思惑はどうでもいい。結果としてこんな可愛らしい王女様に仕上がっているのだから良いだろう。
今回はアイリさんの護衛だ。盗賊に気を付けるようにして居れば大丈夫だろう。その為の俺なんだから。でも、偶には俺の実力の確認もしてみたい。クエストでゴブリン退治なんて物があってやってみたが、所詮はゴブリンだし、それに退治だったしな。人間に対して、どの程度まで俺の魔術と戦闘術が通用するか試すのも良いかもしれない。
そう言えば、盗賊って言うと思い出すのがロリコン野郎とあの少女。隣町って言ってたけどもしかして……
まさかなぁ。世界はそんなに狭くないだろ。うん。
「準備はこちらでしてありますので、ついてきて下さい」
「ああ、解った」
未だに花のような笑顔で、俺に手を向けるアイリさん。
何処行くんだろう。
道中の会話とかそういうモノに想いを馳せていた俺は、この時アイリさんの向けた笑みが、王様の計略の元に向けられたものだと言う事に、全く気付く事が出来なかった。
しばらくして、王宮の裏門に付いた。
俺の装備はいつも通りの赤い外套に、最近買った大剣を背負っている。戦力として、魔術はサラとリンのお陰で基本は完璧だし、応用も一応可能だ。こっちで覚醒した能力を絡ませた俺が創った黒焔系はやめておいた方がいいかもしれない。あれはリンが言う所の規格外。人に見せていい物では無いらしい。
裏門の所に目を向ける。
あれ、何で神官と門番さん話してんの? てかその本いつぞやのブツじゃねーか。やめなさい! そんな物持ってくんな! にやけながらこっちを見るなエロ神官!
遠目に見えた変態三人に心の中で突っ込みをしながら、表面では平静を装っておく。
すると、アイリさんが出発を告げる。
「さぁ、行きましょうアキラさん。それに近衛の皆さん」
「あぁ、そうだな」
オォー……!、と小さく、そして強かに返事をする近衛の皆さん。その数はおよそ20。
着ている物は皆同じく白色の外套に黒色の軽鎧。頭には目元まである幅広の白い帽子。二人だけ違う色の赤色と青色の帽子の奴が居るから、それが隊長と副隊長なのだろう。
近衛の中には女性もいるらしく、数人軽鎧のある所がきつそうな人がいて眼を釘付けにしそうになったが、まぁ気にしてはいけない。後々リンとサラが五月蠅く言って来そうだ。
そう思っていると、どこかから念を飛んできた気がした。
『なぁリン、何か言ったか?』
『へ? 何ですか?』
『いや、何でもない』
森の中から感じる違和感。どこか気持ちの悪いような、消化不良な感覚。
その時俺は、自らに向けられた好奇の視線の意味に気付くことが出来なかった。
◆ ◇ ◆
森の中を駆ける、アイリさんと護衛の近衛隊長を乗せた馬車。
俺は、アイリさんが俺を連れてきた理由が解った。
出発して数十分経っただろうか、周囲からから殺気立った気配を感じる。きっとアイリさんも気付いてる。でもこいつらは全員それを察知すら出来てねぇらしい。
ついさっきまで、俺はアイリさんの近衛たちと会話をしていた。まぁ、所謂情報収集だ。
手に入れた情報は、ノエリアと言う街は魔術が盛んで、魔導騎士を多く輩出している街だとか、そこには城に有るあの召喚場の大きな召喚陣を描いた大魔女キリアなる人がいると言う事。その人はこの国の中では、一種の賢者のような存在である事。後は眉唾モノだが、その人は1000年を生きる不老長寿の法を編み出したとか、神に面会が出来るとか、色々。
そしてこれから会いに行くアイリさんの友達と言うのは、そのキリアさんの弟子なんだとか。アイリさんは、毎回商人がこちらに来るときに一緒に会いに来てくているらしいのだが、今回は商人が無事に来なかったとかで、心配になっていてもたってもいられなくなり、そこに行く事にしたらしい。
最後に、これが俺にとって一番重要な事なんだが、ここは大盗賊団‘鷹の爪’なる者達が出没するらしい。その被害は甚大で、商人を襲い、人を捕まえて売りさばき、女子供は幽閉しどこか解らぬ暗い所に移動させる。だからここを通る際には最低限ギルドで認定されたD級以上の騎士を連れてこなければならなんだとか。
盗賊と言うと俺も一度会った事があるが、まぁアイツらじゃあないだろう。あのロリコンの事を思い出すと、そんな風に思えてくる。
「止まれぇ! 俺達は盗賊、鷹の爪!! 速いとこ諦めて俺らに捕まりな!!」
少々思考に耽っていると、顔を黒い布で隠した軽装の盗賊らしき男が、四方八方から飛び出してきた。
それに対し、近衛隊の奴らは馬車を守るようにして陣営を即座に組んだ。気付けば俺は其処から少々外れて一歩前に出るような形になっている。
「おい、小僧。お前は仲間はずれか?」
リーダーらしき体中傷だらけの男が、俺にナイフを突き付けてくる。刃物が喉に突き付けられるのは、これで二度目。
相手の人数は40人以上。
どこぞの国の傭兵崩れか、統率の取れた動きで俺達の周囲を取り囲む盗賊たち。
これは、使えるかもしれない。
「アイリさん! そいつらと一緒に逃げろ!」
俺は首元のナイフを即座に極小の獄焔で焼き払い、前方に居る盗賊たちに結界の強化系「空間系魔術:防御結界」と門を同時使用して、纏めて馬車の邪魔にならねぇ所に移動させる。
叫んで魔術を使うまで、約一秒ほど。呆けている近衛隊の連中に怒声を飛ばす。
「速く行けぇ!! それがアンタらの仕事だろぉ!!」
言うと同時に、アイリさんが馬車から顔を出したが関係ない。
全員纏めて、俺がこの場から視認できる限界の場所まで先の魔術の併用で吹き飛ばす。
その様に、盗賊は顔を引きつらせている。そう言えば最初の魔術は無駄だったな。防御結界は解いとこう。
自身の感覚としては、魔力は有り余ってるし体力も申し分ない。アイツらは今最高の仕事を邪魔されて、詰め込まれた火薬で爆発寸前の爆弾と同じ。
だから俺は背負った大剣を引き抜き構え、微笑と共に、
「さぁ、アンタらの相手は俺だ。全員一緒に叩きのめしてやるよ。コソ泥共」
壮大なる挑発を、小さく一言呟いてやる。
それは導火線の根元に軽油を駆けて、火をくべるのと同じ事。
『ッザッケンナァ!! 俺らもこれから仕事するとこだったんだよォ!! クソガキがぁ!!』
当然、奴らは逆上する。
見えない顔を歪ませて、森に怒鳴り声を響かせる盗賊達。
憤怒の表情を隠さず、初めから感じていた殺気は、明らかに大きくなった。
俺の実力がどれ程か、これでやっと、試せるな。
口角を釣り上げ、俺はただ一言。
「俺の仕事もこれからだ」
そう言って俺は、自らの手に自身の幻想の塊を出現させた。
明後日から学業の方に移らねばなりませんので、更新は出来て一週間に一度くらいになると思いますが、ご了承ください。<(_ _)>




