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Ep11;思惑は妖しく……



『おっ、噂の彼のお出ましかな☆』


 その声が聞こえた瞬間、俺は扉を蹴破った。


「何でテメェがいんだよ!!」


 視界に入るのは、純白の着物を着て、その上に真紅の羽織を引っかけた、俺をここへと送ってきた問題の野郎が居たのだ。

 そいつの容姿は一言で言うと普通。

 黒髪黒眼の、一般的な日本人男性の姿だ。

 だが、そこが何だか引っかかる。コイツは神を自称している。しかもそれだけでなく、俺をここに送り届けると言う能力チカラも持っていた。


 そんな存在であるアイツは、確かに俺にこう言ったのだ。『向こうにいけるのは、貴方だけなのです』と。

 アイツの言う貴方とは俺の事だし、その時はアイツの前に俺しかいなかった。

 だから、だから俺は憤努するのだ。

 アイツの後ろに、俺の生きてきた十五年の間、見なれた少女の姿が有る事に。


「テメェ、言ってた事と違うじゃねぇか……!!」


 俺は、真夕美はここには来ないと思ってた。それにアイツははっきりとこういった。『彼女の事は心配しなくても大丈夫です。向こうにはいけませんから』と。それが本当に真実かは解らないが、その眼は嘘を言っているようでは無かった。

 あれは俺の見間違いだったのか。

 そんな事を思っていると、自称神はこう言った。


『何を言っているんですか? 暁さん、アナタは勘違いをしている。私も、私の後ろの真夕美さんも、そこ(・・)にはいませんよ』

「は?」


 こっちを指す和ぎる神。

 アイツは何を言っているんだ?


 理解が出来ない。見た限り、確かにアイツと真夕美はここに居る。


『どうやら解っていないようですね。では、私達の方に来て下さい』


 手招きをする和ぎる神。

 警戒しながらも、一歩一歩前へと踏み出していく。

 神官たちは、俺が入ってくる前からアイツに視線を釘付けにされているようだ。

 何か使ったのか?

 きっとアイツのする事は、俺には理解不能なのだろう。半分は気を抜いた状態で、俺はそれに気付いた。


「何だ、これ」


 近づいたことで解ったのだが、和ぎる神も真夕美も、どこかノイズが走っている。前の世界のテレビで言う所の砂嵐の状態だ。

 手を伸ばしてみても、すり抜けていく。


「どう言う事だよ」

『聴き方に少々問題があるとは思いますが、まぁ良いでしょう。貴方から見て、私達は映像です。

 立体に見えていたから、ここに有るのだと錯覚していたのでしょうが、私達の実体は其処にはありません。ついでに言うと、会話を出来るのも私と貴方だけです。

 私は思念を飛ばす事で会話が可能ですが、真夕美さんにはそれは出来ませんから』


 良く分からない事を言っているが、要するにここに居るように見えるアイツ等は、本当はここに居ないと言う事なのだろう。

 それならば良かった。そう思って気が抜ける。そう、俺は真夕美に危険が無いのならそれでいい。


『では、本題に入りましょうか。まずはこちらの状況。

 次にそちらの世界に行った貴方の身体を奪った者たちと、その目的。そしてその世界における貴方の本当の役割を……』


 初めにアイツが語り始めたのは、俺がこの世界に来てからの向こうの世界の日常。

 現実世界での俺と真夕美は、今の所和ぎる神の使役する式神とやらで俺達の事をカムフラージュしてあるんだそうだ。心配していた学校とかの事とかを聞いたら、何も変化なく進んでいるそうだ。

 

 次にアイツはとんでもない事を言いだした。

 この世界に俺の身体を喰らった妖怪たちが、いつの間にか渡って来ていると言うのだ。アイツは、ここと向こうの時間軸はどこかずれているから、いつ着くか解らないと言っていたが、それでは対処法が立てられない。

 あの妖怪たちには、俺は瞬殺されている。そんなのが来てしまえば俺は使命も糞も無い状況になるんじゃなかろうか。

 そう質問したら、アイツは気楽に『今の貴方なら大丈夫ですよ』と、言ってきた。何が大丈夫だってんだ。


 最後にアイツは、『貴方の使命は、【破壊】する事。繰り返される勇者と魔王の殺し合いの、混沌の物語り。貴方はそれに、終止符を打つんです』等と訳のわからない事を言ってきた。

 これなら最初に言われた使命の方がまだ楽だった。もうわけが解らねぇ。


『これで貴方への言伝は終わりです。あ、忠告しときますけど、もうその国出ないと、貴方に悪い事が起こりますよ。主に精神的な意味で……

 ではでは、私は真夕美さんに貴方は元気だったと言っておきますね☆』

「ま、待てっ、俺はお前に聞きたい事が……」


 一気に語り、アイツはスーッと消えていった。

 すると、今まで黙っていたサラが、ダムが崩れて鉄砲水が起きたかのように、マシンガントークを開始した。


あるじ!! あ奴は何者なのじゃ!! そこら辺の下級神官等と違う筈の、精霊であるわれまで呑みこむ極大なる神気。有無を言わせず目を奪わせる魅了の魔眼!

 主も主で、それを物ともせぬとはどういう事じゃ! うぬらは何処の化け物じゃ!』


 突然の暴発に、俺は返す言葉が見つからない。と言うか、サラ。お前そんなに暴言をはくようなだったけ?

 フーフーと息を切らしながら、サラは言葉を続ける。


『それにじゃ、吾はあのようなむすめは知らぬぞ……。

 見も知らぬ娘の為に怒っている姿は、契約した精霊として、吾は、なんと言うか……、もどかしかったのじゃぞ……』


 顔をそっぽへ向けて、ぼそぼそと呟き、直ぐにサラは消えてしまった。

 言葉は良く聞こえなかったが、後ろから見えた耳は、真っ赤に染まっていた。


 そんなサラに影響されたのか、神官達が一斉に俺の方を向く。な、何!?


異那人わたりびと殿。彼の者は何者なのですか……!」

「異那人殿、貴方は何処からいらしたのですか……!」

「異那人殿、先の話は真実なのですか……!」

「異那人殿、あの少女とはどんな仲なのですかぁ?」


 異那人殿、異那人殿、と質問を叩きつけてくる神官達。

 ん? 今何か不穏な質問が聞こえた気が……


「異那人殿、貴方は一体何者なのですか……!」

「異那人殿、彼の者のと如何して会話が出来るのですか……!」

「異那人殿、貴方の事を、ぜひここで調べさせていただきたい……!」

「異那人殿、彼女のスリーサイズを教えて下さい♫」


 続けてぶつけられる疑問。って、ん? さっきから真夕美の事聞き出そうとしてるやつ誰だぁ! 俺が叩きつぶしてやるから出てきやがれ!


『アキラさん。これは逃げた方がよさそうですね……』


 思念で俺にアドバイスをしてくれるリン。そうだな、ここは逃げよう。


『えっと、転移先は……』

『修練場です』


 ゲートの魔術を使って移動する先を決めようとしていると、リンが勝手に転移先を決め、転移を開始させてしまった。

 この魔術はリンから伝わった魔術であるため、彼女には色々と横入り等が出来るようだ。

 空間系は彼女の方が有利なのだ。






 円形の門をくぐり、着いた先は今朝の修練場。

 そして、逆さに見える奇麗におめかしをしたアイリさん。その顔はもの凄く驚いている。

 アイリさんを確認したと思ったら、ゴチン、と言う音と共に激しい痛みが頭に走った。


『あ、あんなにデレデレしてたアキラさんがわるいんですよ?』


 リン、俺が一体何をしたと?



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