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地上へ

石段を上りきったところで、外気が一気に流れ込んできた。


ひやりとした空気。

埃っぽい地下とは違う、乾いた夜の匂い。


カイルが先に出て、振り返る。


「……来い」


ハディも遅れて地上に出る。


一歩踏み出した瞬間、視界が開けた。


——街が、微かに光っている。


遠く。通りの向こう。

建物の壁面や、窓の奥、崩れかけた柱の隙間に——


淡い光が、点々と灯っていた。


松明の光とは明らかに違う。


揺れず、煙もない、白い光。


「……」


ハディは足を止める。


見覚えがあるような、ないような光。


けれど、目が勝手に追ってしまう。


光は建物の内部を走り、壁を伝い、地面の下へ潜っていく。

いくつかは途中で途切れ、また別の場所でかすかに続いている。


全部が繋がっているわけじゃない。


——途中で切れている。


「中途半端だな」


横で、カイルがぼそっと言った。


「起きたっていうより……寝ぼけてる感じか」


軽く肩をすくめる。


「ここまでの稼働は数百年ぶりの偉業ってことになるだろう」


どちらかというと、呆れたような調子。


ハディは何も返さない。


ただ、視線を街に向けたまま、少しだけ首に手をやる。


首飾りが、まだかすかに熱を持っていた。


「いいか、よく見とけ」


カイルが顎で街を指す。


「あれが今のラドネスだ」


視線の先。


崩れた建物の一角だけが、内側から淡く光っている。

扉の縁に刻まれた模様が、線になって浮かび、すぐに消えた。


別の場所では、石畳の下から光が滲み出ている。


けれど——


どれも長くは続かない。


灯って、消える。

灯って、また途切れる。


「とはいっても、稼働はほんの一部だけだ」


カイルが続ける。


「主回路の端っこが、ちょっとだけ息吹き返した。……それだけ」


少し間を置いて、


「で、その原因が——お前だ」


口の端だけで笑う。


「仲良くしようぜ」


軽い言い方。


けれど視線は、まったく軽くない。


ハディは街から目を離さない。


光の流れが、どこかで見た構造に似ている気がした。



そのとき。


遠くで、低い音が鳴った。


……ゴォン、と。


地面の奥から響いてくるような、鈍い振動。


光っていた線のいくつかが、ふっと消える。


「……ほらな」


カイルが小さく舌打ちする。


「安定してねえ」


もう一度、街を見渡してから、ハディに向き直る。


「長くはもたない。修復機構も動いているはずだが、どう転ぶかわからん」


少しだけ間を置く。


「最悪、全部落ちる」


脅すような言い方じゃない。


事実を、そのまま置いてくる声。


風が吹く。


光の消えた建物は、沈黙している。


さっきまで灯っていた場所も、もう暗い。


けれど——


完全な闇じゃない。


まだ、いくつかの線が、しぶとく残っている。


細く、弱く、でも確かに。


「……で」


カイルが踵を返す。


「ここからどうするか、だな」


数歩進んでから、振り返る。


「立ってるだけでも目立つ。もう補足されているだろう」


少しだけ、視線を細める。


「来い。歩きながら話す」


ハディは最後にもう一度だけ街を見る。


消えかけの光が、わずかに脈打った。


——まだ、終わっていない。


そう言われている気がした。


何も言わず、カイルの後を追う。

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