承認
光が、弾けた。
白でも、金でもない。
色の定まらない光が、内側から膨れ上がる。
ハディの視界が潰れる。
音が消える。
――遅れて、叩きつけられる。
重圧。
肺が潰れる様に息が抜ける。
指先が、回路に貼り付いたまま動かない。
「……っ、やめろ!」
男の声が遠く聞こえる。
流れが、逆流する。
外周から中心へ――ではない。
中心から、ハディへ。
無理やり、引きずり込まれ、何かが差し込まれる感覚。
『―――照合。』
数字が浮かぶ。
意味は分からないのに、分かる。
適合率だ。
数字は揺れ、下がり、上がる。
『43……48……45……』
「おい、離せ!聞こえてんのか!」
男の声が、少し近づく。
数字は中心の少し下にとどまり、わずかに届いていない。
『49.2』
止まる。
一瞬、静止。
そして――
落ちる。
『———47』
圧が強くなる。
骨の内側から軋む。
視界の端が黒く欠ける。
「ああクソ……!」
男の舌打ち。
「はじかれるぞ……!」
引き剥がされる感覚。
回路が、拒絶している。
異物。
排除。
終わる。
――そう思った瞬間。
首元。
震え。
熱。
首飾りが、強く脈打つ。
流れが、変わる。
ほんのわずか。
ほんの“ズレ”程度。
だが、それで足りる。
『49.8』
『――—50.1――—』
切り替わる。
一気に、静かになる。
圧が消える。
音が戻る。
空気が肺に流れ込む。
《条件付き認証》
声でも、音でもない。
ただ“そう理解する”。
ハディの手が、ようやく外れる。
膝が崩れ、床に手をつく。
息が荒い。
視界がまだ揺れている。
「……はぁ、……は、っ……」
喉が焼け、自分の息遣いが聞こえる。
遅れて、痛みが来る。
全身。
神経が遅延して悲鳴を上げる。
「……生きてるな」
すぐ横。
男の声。
さっきより、低い。
「……今の、分かったか」
返事はない。
ハディはただ息を整えている。
「はじかれてたら、死んでたぞ」
短く言う。
冗談じゃない声。
少し間。
男が、息を吐く。
「……まあいい」
頭をかく音。
「自己紹介、まだだったな」
少しだけ、軽い調子に戻る。
無理やりだが。
「カイルだ」
間。
「寺院の人間だよ。一応な」
―――こちらが知っている前提で話している。
ギルドでわずかに話に出た…宗教勢力というやつだろうか。
苦く笑う気配。
「外環の技師。回路の外側いじる仕事してる」
肩をすくめる。
「さっきの見ただろ。ああいう“詰まり”とか、“歪み”とか」
軽く回路の方を顎で示す。
「直すのが仕事だ。……まあ、できることは少ないが」
少しだけ言葉を濁す。
「中の方は触れねえ」
ちら、とハディを見る。
「触ったやつは、大体ロクなことにならねえからな」
一瞬だけ、本音が混じる。
「で、お前は――」
そこで言葉を切る。
「……触れちまったな」
小さく笑う。
「しかも、通っちまった」
カイルが目を細める。
「半分ちょい。ギリギリだ」
「普通はな、0か100だ。
通らねえやつは、弾かれて終わり。
通るやつは、最初から通る。そういう血筋だ」
少し間。
「お前みたいなのは、見たことねえよ」
静かに言う。
「中途半端に通って、生きてるやつなんてな」
回路の中心が、もう一度だけ脈打つ。
さっきより弱い。
だが、確かに反応している。
カイルがそれを見上げる。
「……条件付き、か」
ぼそりと呟く。
「寺院の上は一番嫌うやつだな、そういうの」
視線が、ハディに戻る。
「おめでとう」
口の端だけで笑う。
「今この瞬間から、お前は“例外”だ」




