まだ終わっていない
夜の広場。
荷車の影に倒れた男たちが、次々と縛られていく。
カイレンの部下たちは静かに動いていた。
縄。
武器の回収。
死体の片づけ。
抵抗はもうない。
老兵が剣を鞘に戻した。
「思ったよりあっさりだな」
盾役が笑う。
「まあこんなもんだろう」
二人は肩の力を抜いているように見える。
だが――
ハディの刻印は、まだ警告していた。
ふたりの緊張と――敵意。
ハディはゆっくり視線を動かす。
老兵。
盾役。
二人の呼吸が、わずかに変わっていた。
そして。
カイレンも、同じものを見ていた。
カイレンは拘束された男から離れ、ゆっくり立ち上がる。
「ご苦労。報酬が必要だな」
老兵が笑う。
「どういたしましてだ」
盾役も肩を回す。
「まあ仕事のうちだ」
一瞬の沈黙。
夜風が吹く。
カイレンは何気ない声で言った。
「ところで、屋敷の襲撃の件だが」
老兵の目が一瞬だけ細くなる。
「……何だ?」
カイレンは軽く首を傾けた。
「実はな」
静かに続ける。
「俺も、あそこにいたんだ」
盾役の笑みが止まる。
カイレンの視線が二人を貫く。
「お前たち二人は、門番だったな?
―――一体、何をしていた?」
沈黙。
次の瞬間――
盾役が動いた。
盾が跳ね上がる。
突進。
だが。
地面が隆起した。
ゴン、と石畳が持ち上がる。
盾役の足が止まり、老兵の剣が抜かれる。
だが。
ハディは動かない。
静観する。
剣がカイレンに届く前に――
屋根から影が落ちた。
カイレンの部下。
刃が閃き、老兵が後ろへ跳ぶ。
盾役が叫ぶ。
「ちっ、ばれてたか!」
カイレンは静かに言う。
「最初からだ」
盾役が地面を蹴り、ハディの横を抜ける。
―――つい、足が伸びた。
足を払われ、盾役がたたらを踏む。
次の瞬間。
石の腕のように隆起した地面が――押し潰した。
老兵は数歩下がり、剣を構える。
周囲には部下。
逃げ道はない。
老兵はハディを見る。
一瞬。
「……お前も気づいていたのか」
ハディは何も答えない。
老兵は小さく笑った。
「そうかよ」
次の瞬間。
刃が同時に動いた。
戦いは――
一息で終わった。




