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丘の男


ギルドの中は相変わらず騒がしく、こちらを気にする者はいない。


木の机。

酒の匂い。

冒険者たちの笑い声。


黒い外套の男がテーブルの横に立つ。


丘で戦った刻印使い。


男は酒杯を軽く揺らし、顎で外を示した。


「少し話そう。悪い話じゃないはずだ」


老兵が眉をひそめる。


「ここで話せ」


男は肩をすくめた。


「構わんが」


ゆっくりと立ち上がる。


「この街の貴族の名前が出るぞ」


空気が少しだけ変わった。


盾役が舌打ちする。


「……面倒な匂いがするな」


ハディは男を見ていた。


感知刻印が静かに働く。


敵意はない。


少なくとも今は。


ハディは軽く手を上げる。


行く、という合図。


老兵がため息をついた。


「仕方ねえな」


三人は男の後を追った。


ギルドの外は夜になりかけていた。


街灯が灯り始めている。


男は表通りではなく、細い路地へ入った。


石壁に囲まれた静かな場所。


やがて古い倉庫の裏で足を止める。


男は振り返った。


「まず」


腕を組む。


「丘の件だ」


盾役が睨む。


「説明してもらうぞ」


男は頷いた。


「簡単だ。最後の試験だな」


老兵の目が細くなる。


「……何の?」


「護衛の腕だ」


男は平然と言う。


「セリア様のな」


空気が重くなる。


盾役が一歩前に出た。


「ふざけてるのか」


男は首を振った。


「むしろ逆だ」


「かなり本気だった」


ハディを見た。


「お前が想定以上だっただけだ」


ハディは何も言わない。


ただ男を見返す。


男は小さく笑った。


「安心しろ」


「最初から殺す気はなかった」


老兵が腕を組む。


「……じゃあキャンプと屋敷で襲ってきた連中は?」


男の表情が少しだけ変わる。


「あいつらか」


短く息を吐いた。


「別だ」


盾役が眉をひそめる。


「別?」


男は頷く。


「依頼の説明通りさ。セリア様が交渉のごたごたで狙われた」


少し間を置く。


「誘拐だ」


空気が一段冷えた。


老兵が低く言う。


「護衛を雇うほどの家だ」


「敵も多いってことか」


男は頷く。


「人質に取って交渉を有利に進めようとした連中だ」


盾役が吐き捨てる。


「貴族の争いか」


男は否定も肯定もしない。


「まあ、そんなところだ」


男は壁にもたれた。


「だが」


指を一本立てる。


「もう終わりだ」


老兵が眉を動かす。


「どういう意味だ」


男は静かに言う。


「襲撃犯の背後を調べるのが俺の仕事だった」


ハディの感知刻印がわずかに反応した。


男の気配。


嘘ではない。


男は続ける。


「今夜、全部捕まる」


盾役が腕を組んだ。


「じゃあ俺たちは?」


男は肩をすくめる。


「関係ない。護衛任務は終わってる」


少し笑う。


「だが」


ハディを見る。


「もし興味があるなら、面白いものが見られるぞ」


路地の奥を指した。


「この街の裏側だ」


静かな夜風が吹いた。


遠くで鐘が鳴る。


男は背を向けた。


「来るか?」


「それとも帰るか?」


ハディの感知刻印が、もう一度街を撫でる。


どこかで――


武器の気配が動いた。

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