ギルド支部にて
屋敷の門を出たとき、夕方の光はすでに赤く傾いていた。
石畳の道を、四人で歩く。
屋敷の区域は静かだったが、坂を下るにつれて街の音が戻ってくる。
鍛冶の音。
酒場の笑い声。
荷車の車輪。
ラドネスは生きていた。
トルンが門の前で足を止めた。
「俺はここまでだ」
風の刻印使いは、肩を回しながら言う。
「貴族直属だからな。報告がある」
彼は屋敷の方を顎で示す。
「セリア様の護衛は正式に完了だ」
老兵が笑う。
「お役人仕事ってやつか」
トルンは肩をすくめた。
「給料はいいぞ」
盾役の大男が鼻で笑う。
「自由がない」
「それは否定しない」
トルンが苦笑する。
彼の視線がハディに向く。
「お前」
少しだけ間が空く。
「いい動きだった」
短い言葉。
ハディは軽く手を上げた。
それだけの返事。
トルンは頷く。
「またどこかで会うだろ」
そして踵を返した。
風の刻印使いは、屋敷へ戻っていった。
残ったのは三人。
老兵。
盾役。
ハディ。
老兵が背中を伸ばす。
「さて」
大きく息を吐いた。
「冒険者に戻るか」
盾役が笑う。
「まずはギルドだな」
護衛任務の完了報告。
そして報酬。
ラドネスの冒険者ギルドは、城壁の内側でもかなり大きい建物だという。
三人は街の中心へ歩き出す。
石畳の通りを抜ける。
露店。
鍛冶屋。
宿屋。
人が多い。
難民らしい姿も目につく。
老兵が低く言う。
「森が焼かれてから、魔物が増えた」
盾役が頷く。
「だから冒険者も増えてる」
ハディは周囲を見ていた。
感知刻印は、薄く広げてある。
街の雑多な気配。
人。
動物。
金属。
火。
だが。
その中に、さっきの気配はない。
完全に消えている。
やがて大きな建物が見えた。
石造りの三階建て。
入り口の上には大きな看板。
剣と盾の紋章。
冒険者ギルド・ラドネス支部。
扉を開く。
中は騒がしかった。
酒の匂い。
笑い声。
木の机。
冒険者たちが集まっている。
三人が入ると、何人かがこちらを見る。
老兵が受付へ歩く。
「護衛任務、完了だ」
書類を差し出す。
受付の女性が目を通す。
「セリア・ラドネス様の護衛ですね」
頷く。
「確認します」
少しして、奥から職員が出てくる。
報酬袋が机に置かれた。
銀貨の重い音。
盾役が口笛を吹く。
「悪くない」
老兵が袋を三つに分ける。
「基本通りだ」
一つをハディに渡す。
ハディは受け取って軽く振る。
重い。かつてないほど。
その時。
背後で椅子が引かれた。
誰かが立つ。
ギルドの奥の席。
黒い外套の男。
腕に刻印。
丘で戦った男だった。
男は酒を飲みながら、こちらを見ている。
そして笑った。
「また会ったな」
ギルドの空気がわずかに張る。
老兵が眉をひそめる。
「……知り合いだったか?」
ハディは何も言わない。
ただ。
感知刻印が静かに熱を帯びた。




