表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/75

夜番


門と館の間、庭を見下ろす回廊で、呼吸を整える。


夜番は俺と、門前に二人。

内部については知らされていない。


月は雲に隠れている。庭は暗い。

灯りは最小限。侵入者に輪郭を与えないためだ。


少しの違和感から、いつものように、索敵用の刻印を整える。


首飾りの金属片に刻まれた線。

意識を落とすと、線の並びが浮かぶ。


外へ向かって広がる配列。

薄く、広く。

波紋のように。


音ではない。

匂いでもない。


違和感をかたちにする配置。


中庭の空気は静かだ。

風の揺れ。木の擦れ。小動物の移動。


異常は――


ある。


わずかに、庭石の影がずれる。


視線を落とさず、配列を一段深く沈める。


もう一つ。


塀の外。


三つ。


呼吸を浅くする。


侵入経路は南東角。

庭師用の小門。


合図を出すには距離がある。

今は動くべきだ。


刻印の並びを掴む。


索敵用の線は拡散している。

戦闘には向かない。


意識の中で、線を寄せる。


外へ広げていた輪を、内へ畳む。


円環を締める。


南京錠のダイヤルをまとめて回すように、

配列を一気にずらす。


一段。

二段。

三段。


位置が噛み合う。


――ガコン。


音が響く。

自分にだけ。


世界が、少し硬くなる。


広く浅い感覚が、鋭く狭い刃に変わる。


戦闘用。


身体の芯が重くなる。

反応が前に出る。


影が塀を越える。


一人目は着地が上手い。

音を殺している。


二人目は遅れる。

三人目は弓。


狙いは、俺。


視線の感知か何かか、気づいたことに気づかれている。

相手の刻印は、見えない。


回廊の柱から身を切る。


矢が飛ぶ。


さっきまでの俺なら、避ける前に気付くだけだった。

今は違う。


放たれる瞬間、空気の圧が歪み、不自然に静かな矢が放たれる。


半歩ずらす。


矢は背後の木戸に刺さる。

突き刺さる音すらない。


走る。


階段は使わない。

回廊の手すりを越え、中庭へ落ちる。


着地と同時に前転。

衝撃は流す。


一人目が短剣を抜く。


間合いが浅い。

こちらを斥候と見ている。


踏み込む。


手甲で刃を弾く。


金属が擦れる音。

衝撃は腕を通して逃がす。


刻印の反応が、相手の重心の揺れを教える。


左足に寄りすぎ。


足払い。


崩れる。


肘を落とす。

終わり。


二人目が横から来る。


戦闘配列の感覚が背後を拾う。


振り向かない。


腰を沈め、逆手で短剣を振る。


腹に入る。


息が止まる音。


そのまま肩を掴み、庭石へ叩きつける。


動かない。


三人目。弓。


距離がある。


再装填が早い。


刻印が、弦を引く動きを先に拾う。


直線で走ると読まれる。


庭木の影を縫う。


矢が幹に刺さる。


もう一本。


それも避ける。


距離が縮む。


弓を捨て、短剣へ持ち替える。


遅い。


踏み込みの瞬間、配列がわずかにずれる。


反応が鈍る。


戦闘配列は消耗が早い。


終わらせる。


低く潜り、足首を刈る。


転倒。


刃を握る手を踏みつける。


短い悲鳴。

続けて、くぐもった悲鳴。


静かになる。


周囲を確認。


少なくとも、屋敷に異常はない。

追加なし。


配列を保ったまま、庭を一周する。


異常は消えている。

正門にいたはずの見張りの気配も。


深く息を吐く。


ダイヤルを戻すように、配列を回す。


逆順。


広く。

浅く。


――ガコン。


今度は軽い音。


世界が柔らかく戻る。


二階の窓に人影。


セリアだ。


灯りを背に、こちらを見ている。


騒ぎは最小限に抑えた。

屋敷内はまだ混乱していない。


俺は何も言わない。


言えない。


だが、戦闘配列の残滓が、まだ胸の奥で熱い。


彼女はしばらく庭を見下ろし、

やがて窓を閉じた。


護衛任務は続く。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ