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読まれる側


刻印が見えるようになってから、

街の見え方が少し変わった。


動きが違う“理由”が分かる。

強いか弱いかじゃない。


どう動くかが分かる。


だが同時に、

自分も読まれる側になった。


それが一番大きい。


次の依頼は夜だった。


場所は歓楽街の外れ。

まだ建てかけの建物。


明かりは少なく、

人の気配も薄い。


だが、いる。


見える前から分かる。


建物の影から出てきたのは男が一人。


武装は軽い。

短剣。

革鎧。


普通に見える。


だが視線をずらすと、

浮かぶ。


二文字。


「測」「間」


距離を測る刻印。

間合いに入らない構成。


戦うためというより、

相手の動きを読む並び。


つまり――

同じ種類だ。


男は笑わない。


「見る目がついたって聞いた」


声は低い。


誰が流したのかは分かる。

考える必要もない。


試されている。


距離を詰めない。


相手も詰めない。


空気が止まる。


刻印が静かに浮く。


俺の中の三系統。

輪郭。

感覚。

気配。


繋ぎを置く。


線が揃う。


男の刻印がわずかに変わる。


間合いを詰める準備。


踏み込みの前の重心移動。


先に動く。


半歩だけ。


それで十分だった。


男の目が細くなる。

読まれたと分かった顔。


短剣が来る。


速くはない。

だが軌道が綺麗だ。


手甲で受ける。

弾かない。


流す。


その瞬間、

男の刻印が強く光る。


「測」が働く。


距離を修正してくる。


だが――


こちらも繋ぎを一つ増やす。


感覚から輪郭へ。

輪郭から気配へ。


線が一瞬だけ揃う。


男の動きが遅れる。


ほんのわずか。


それで十分。


肩を押し、

足を払う。


倒れる。


首元に手を当てる。


止めは刺さない。


男は笑った。


「合格だ」


試験だったらしい。


影からラグスが出てくる。


最初からいた。


「読めてたな」


頭もいた。

壁にもたれている。


「刻印を見るってのはな」


頭が言う。


「戦うためじゃない」


「生き残るためだ」


ラグスが続ける。


倒れていた男が起き上がる。


ただの試験官。


刻印を浮かせたまま、

軽く頭を下げる。


「もう初見じゃ死なない」


それだけ言って去った。


帰り道。


街の灯りが増えている。


歓楽街の建設は止まらない。

人も金も流れ込む。


この街は動いている。


その中で、

刻印も動いている。


手甲を握る。


さっきの戦いで分かった。


強くなったわけじゃない。


ただ――


判断が速くなった。


それだけだ。


だが、それが生き残りを分ける。


次は本番になる。


試しは終わりだ。


そういう空気だけが、

静かに残った。

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