冒険者に
冒険者組合に入った理由は単純だ。
表の身分が欲しかった。
どこに行っても咎められず、
名前を聞かれても困らない立場。
それだけあれば十分だった。
読み書きはできない。
依頼書の文字はただの模様だ。
だから受付に読んでもらう。
焼け森の見張り塔に住み着いたゴブリンの排除。
塔内の物資確認。徒歩で数時間。
報酬は銀貨と干し肉。
分かりやすい。
それでいい。
「単独で行くの?」
頷く。
説明はしない。必要もない。
森は焼け跡の匂いがまだ残っていた。
黒く立った幹の間を抜けると、
石造りの塔が見えてくる。
入口の周りに、小さな足跡。
数は三つか四つ。
新しい。
扉を開ける前に、
呼吸を一度だけ整える。
中に入ると、すぐに物音。
高い声の囁き。
角から顔を出したゴブリンが
こちらを見るなり叫んだ。
距離を詰める。
短い棍棒が振り下ろされる。
半歩ずらし、手甲で受ける。
金属が鈍く鳴る。
衝撃は腕の外側に逃がす。
そのまま踏み込み、
肩で押し込み、肘を落とす。
軽い。
一体目はそれで終わり。
奥から二体。
一体の突きを手甲で弾く。
もう一体の横薙ぎをしゃがんで避け、
足を払う。
倒れた方の喉に膝。
もう一体は立ち上がる前に拳。
静かになる。
塔の中は簡単に見て回れる広さだった。
寝床代わりの布切れと、
かじられた保存食。
上階に上がると、
壁際に木箱がひとつ。
鍵付き。罠なし。
刻印を使うまでもない。
手甲の指先に仕込んだ細い金具を出す。
鍵穴に差し込み、ゆっくり探る。
中の板の動きが指に伝わる。
ひとつ、
ふたつ。
小さく押すと、
軽い手応え。
カチ、と音がした。
蓋を開ける。
中身は
銅貨の袋と、
保存用の小瓶。
それに簡単な地図。
価値は大きくない。
だが依頼の「物資確認」はこれで済む。
地図と袋だけ回収する。
塔の外に出ると、
森は来たときより静かだった。
背後で風が塔の隙間を鳴らす。
もう何も出てこない。
依頼は終わりだ。
組合に戻り、
回収品を渡す。
受付は中身を確認して頷いた。
討伐証明の刻印を木札に押される。
これで正式に一件達成。
銀貨を受け取る。
重さよりも、
周りの視線の変化の方が分かりやすい。
“使える”と判断された目だ。
外に出ると、
焼けた下層では建て直しが進んでいる。
新しい看板、
新しい灯り、
新しい客を呼ぶための街。
「裏」が表にあふれ出す。
そこを横目に歩く。
表の身分は手に入った。
ただの肩書き。
最初の依頼としては十分だった。




