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第50話 一区切り
霧は、もう戦の匂いを運んではこなかった。
外壁の外では、敵軍の焚き火の跡が冷え、
街の中では、奪われたはずの物資が市場に並び始めている。
誰も真相は語らない。
だが皆、何が起きたかは知っていた。
包囲は解けた。
褒められたやり方ではないが、街は生き延びた。
それで十分だと、誰もが言い聞かせている。
下層は前よりも静かだった。
人が減ったからではない。
むしろ増えはじめている。
だが空気が違う。
「次は自分かもしれない」
その予感を、全員が共有している静けさだった。
俺は寝床の隅で、刻印を並べる。
見えない文字。
触れれば返る反応。
新しく集めたガラクタの刻印も、いくつか身につけた。
まだ名前はない。
だが確実に、構成は広がっている。
街は平穏を取り戻したことになっている。
貴族は沈黙した。
敵軍は退いた。
難民は散った。
全部、元通りだ。
ただ一つ違うのは――
俺が、この街の仕組みを理解してしまったことだけだ。
屋根の上を風が抜ける。
逃げる場所は、まだある。
戦う理由も、まだない。
だが確実に言える。
ここから先は、
「生き残るだけの話」では終わらない。
俺はガラクタたちをを包み、立ち上がる。
霧の街は、相変わらず灰色だ。
だが今は、その輪郭がはっきり見える。
次に動くのは、俺たちだ。
一区切りです。ご覧いただき、ありがとうございました。




