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第48話 窮鼠

気配探知には多数の影。

「確実に敵なのは」自分を囲む形で3人。馬車の影に2人。

すべてが敵なら、どうしようもない数だ。


踏み込んだ瞬間、世界が沈んだ。


音が近い。

距離が短い。

身体が、刃物のように研がれる。


――身体強化。

――感覚同調。


切り札の刻印を使用する。

冒険者たちの使う刻印をつぎはぎで再現したもの。

ただ早いだけ、制限も多い未完成の刻印だ。


最初の護衛は遅れた。

鎧の継ぎ目に短剣を滑り込ませる。

重心を崩し、倒す。


二人目は強い。

正規の動き。

腕を掲げ、何かの刻印を使おうとしている。


踏み込む。

肘を打ち込み、喉を押し、膝を折らせる。


――二人。


そこで身体が悲鳴を上げた。


刻印が軋む。

視界が揺れる。

肺が焼ける。


屋根の上から弓が上がるのが見えた。


終わりだ。


矢が放たれる――その瞬間。


横から飛んできた石が、射手の頭をとらえた。


屋根から影が落ちる。


ミーク。


「無茶すんな」


声は短い。


路地の奥から血の付いた短剣を持ったラグスが歩いてくる。

ゆっくりと。

だが空気を押しのけるように。


護衛たちの足が止まる。


ラグスが蝋印付きの命令書を拾い上げる。

獅子の紋章。


「ああ、あの家か」


低い声。


「負け戦だと高をくくって、責任は下に流す連中だな」


護衛が苛立ちを隠さず言う。


「対象は確保命令だ。

 抵抗すれば処分も可。上の判断だ」


ラグスが鼻で笑う。


「“上”ね。

 顔は出さず、金だけ出す。

 やることは証拠作りか?」


沈黙。


それが肯定だった。


「隣町の関係者に仕立てる気だろ」

ラグスは続ける。

「難民の中から一人拾えば、説明は簡単だ」


ミークが低く呟く。


「都合がいい」


ラグスが俺を見る。


「お前ならうまくやれたかもしれねぇが、

 余計だったか?」


身体強化の反動で膝が震える。

だが視線は逸らさない。


護衛が再び構える。


緊張が張り詰める。


そのとき。


路地の奥から、足音がした。


一定の、迷いのない歩幅。


空気が変わる。


護衛の一人が、無意識に半歩下がった。


ラグスが小さく息を吐く。


「……来たか」


霧の中から、灰色の外套が現れる。


感情の抜けた目。


いつかの試験官。


その姿がはっきり見えたところで、

路地は完全に静まり返った。

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