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第47話 立ちふさがるもの

霧が薄くなるにつれて、空気の質が変わった。


湿った石の匂いに、香の甘さが混じる。


――ここから先は、境界だ。


下層でも、路地でもない。

壁を越えれば、別の世界だ。


俺が足を止めた理由は、直感だけじゃない。


前方の道に、人が「待っている」気配があった。


隠れていない。

逃げてもいない。

堂々と、ここを通る者を選別するように立っている。


数は三。

鎧は軽装だが、作りがいい。

武器も、使い慣れている。


その後ろに――

馬車。


夜霧の中でも分かる。

装飾過多で、下品なほど目立つ。


貴族だ。


ここで出てくる理由は、一つしかない。


俺は「偶然」ここに来た存在じゃない。

街をかき回し、

盗み、

火と混乱の中を抜けてきた。


――目をつけられていた。


護衛の一人が、一歩前に出る。


「止まれ」


声は低い。

命令に慣れた声だ。


俺は止まった。

逃げても無駄だと分かっている。


馬車の扉が、内側から叩かれる。


「いいだろう」


中から出てきた男は、若くはない。


高価な服は、明らかに場違いだ。

この場にいること自体が異常だ。


男は俺を見て、少しだけ目を細めた。


「君が……噂の子か」


噂。

その言葉で、すべてが繋がった。


難民の流れ。

盗賊ギルドの潰れ方。

下部組織への異様な圧。


そして、俺への執着。


「隣町が落ちた件でな」

男は続ける。

「生き残りの関係者を、こちらで確保したいと思っている」


俺にはこちらでの記憶がない。

本当かどうかが分からない。

だが、向こうにとってはどちらでも構わないのだろう。


仕立て上げるには、都合がいい。


声を出さない。

最低限の動き。

路上の孤児。


貴族にとっては、

「使える材料」だった。


沈黙は、肯定にも否定にも取られる。


男は、それを理解したうえで笑った。


「抵抗するなら、ここで殺す

 大人しく来るなら、今よりはいい暮らしができる」


選択肢は、最初から一つ。


――気に入らない。


俺は、短剣に手をかけた。


護衛たちの視線が、一斉に鋭くなる。


貴族は、それを楽しむように眺めている。


「安心したまえ

 悪いようにはしない」


その言葉が、

一番信用ならなかった。


霧の向こうで、

また鐘が鳴った。


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