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第45話 略奪

霧と煙が、街の輪郭を溶かしていた。


鐘はもう鳴っていない。

代わりに、割れる音と叫び声が重なっている。


ラグスの判断は早かった。

合図だけが飛ぶ。


――奪え。金じゃない。使えるものだけだ。


俺は走る。

狙うのは家じゃない。倉だ。


扉は壊れている。

中は荒らされかけていたが、まだ残っている。


革の外套。

底の厚い靴。

刃こぼれしていない短剣。


一つ拾って、合わなければ捨てる。

迷わない。


背後で争う音。

誰かが倒れる音。

振り向かない。


次の倉。

木箱を蹴り倒す。


布に包まれた鎖帷子。

重い。だが、穴はない。


肩に掛ける。

息が詰まるが、歩ける。


路地を抜ける途中、倒れた兵士がいた。

生きているかは分からない。


靴だけを剥ぐ。

礼も躊躇もない。


生き延びるためだ。


屋根の上を火が走る。

魔物の影が揺れる。


誰かが叫ぶ。

別の誰かが消える。


俺は数を数えない。

覚えない。


ただ、身につける。


最後に振り返ったとき、

街はもう、俺を拒んでいた。


霧の向こうへ走る。

重さを確かめながら。


これは略奪だ。

だが、逃げるための準備でもある。


背後で何かが崩れた音がした。

それでも足は止めない。


――生き残る。


それだけを、抱えて。

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