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第43話 火事

火は、最初から逃げ道を狙っていた。


北の細路地が燃え、次に排水溝沿いが赤く染まる。

煙は低く溜まり、息をするたび喉が焼けた。


「囲われてるな」


ラグスの低い声。


年少組がざわつく前に、闇の奥で足音が増えた。

人だ。しかも慣れている。


偶然の混乱じゃない。

狩りだ。


矢が飛び、壁に突き刺さる。

狙いは人じゃなく、通路。


逃げ道を削っていく撃ち方だった。


俺は刻印を回す。

輪郭が締まり、感覚が揃い、気配が線になる。

つなぎの文字が流れを作る。


ミークの腕を軽く叩く。

右へ。


次の瞬間、矢束が左を裂いた。


「……助かったな」


声は震えていたが、まだ動ける。


ラグスが前に出る。

さっきまでの雑さが消え、間合いだけが残る。


一歩。

喉。

膝。

腹。


倒れる音が続き、そこに細い通路ができた。


「抜けろ!」


俺たちは走る。


だが煙が濃く、熱で視界が歪む。

誰かが転び、誰かが引き上げる。


板が崩れ、悲鳴が飲み込まれた。


「ミーク!」


振り向くと、彼が片膝をついていた。

血が石に落ちている。


俺は腕を掴む。

ラグスも来る。


だがその瞬間、梁が落ちて通路が塞がった。

熱風が吹き抜け、視界が白くなる。


「行け……!」


ミークが叫んだ。


その声に、命令と覚悟が混じっていた。


引き返せない。


ラグスが俺を押し出す。

俺の手から、ミークの指が滑り落ちた。


霧の外へ転がり出たとき、空気が冷たかった。


生き残った人数を数える。

足りない。


誰も口を開かない。


ラグスが煙の向こうを睨んだ。


「……事故じゃねえな」


それだけで十分だった。


火は誘導。

矢は封鎖。

動きは統制。


誰かが、俺たちを消しにきている。


ミークの姿はなかった。


ただ、生き延びた。


それだけで今日は勝ちだ。

だが、それだけでは足りない。


霧の中で町が燃え続ける。


俺たちは静かに理解した。


この戦いは、もう始まっている。

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