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第42話

火事は止まらなかった。


一晩で三件。

翌朝にはさらに二件。


どれも下層区の端。

逃げ道が少なく、増築で袋小路になった場所ばかりだった。


「燃え広がりが早すぎる」


「油だな」


「誰かが撒いてる」


噂は回るが、犯人は出ない。


出たところで意味もない。


騎士団は来ない。

来ても上層寄りだけだ。


下層は――自己責任。


死体の回収が追いつかなくなった。


焼け焦げた梁の下。

煙に巻かれて倒れた難民。

逃げ遅れた孤児。


数が合わない。


昨日いた顔が、今日はない。


俺とミークは荷車を押していた。


車輪が血で滑る。


「……また増えてるな」


ミークの声は乾いていた。


笑わない。


年少組の顔も硬い。


生き残った。

それだけで今日は勝ちだが、それだけでは足りない。


このままだと、順番が回ってくる。


ギルドの拠点では、空気が張りつめていた。


現場管理者たちが集められ、低い声が飛び交う。


「燃えた場所、全部“誘導経路”と重なってる」


「魔物が出た森と、街の火事が線でつながる」


「偶然じゃねぇな」


ラグスが地図を机に叩きつけた。


古く歪んだ街図。


だが、赤い印は綺麗に並んでいる。


「人を集めて、押し出して、焼いて、塞ぐ」


「逃げ道は必ず一つ残してる」


「そこに――狩り場がある」


誰かが呟いた。


「……回収効率、良すぎだろ」


ラグスは頷いた。


「だから上が黙ってる」


「死人が増えてるのに、騒ぎにならねぇ」


「減って困る連中が、守られてる」


沈黙。


つまり――


下層は減らしていい数。

難民は使い捨て。

孤児は帳簿にすら乗らない。


「俺たちが現場を知りすぎてる」


ラグスの視線が俺たちを刺す。


「火事の前に人が動く」


「誘導役がいる」


「それを見て生き残ってるのが、お前らだ」


ミークが息を吸った。


「次は、俺たちの番ってこと?」


「近い」


即答だった。


「だから次は“襲撃”になる」


「事故じゃなく、口封じだ」


外で鐘が鳴る。


昼の合図。


だが、音がやけに遠い。


「今夜か、明日」


ラグスは短く言った。


「準備しろ」


「火と魔物の次は――人だ」


その瞬間、拠点の外で叫び声が上がった。


「火だ!」


「北路地が燃えてる!」


誰かが走り込む。


「出口側が塞がれてます!」


ラグスが歯を食いしばる。


「来やがったな……」


地図の赤印が、また一つ増えた。


街はもう、戦場の作り方を覚えている。


そして次は、

逃げられるようには作られていない。

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