第41話 盛況
夜になっても、森の臭いは消えなかった。
血と焼けた獣脂が混じった、重たい匂い。
盗賊ギルドの拠点は騒がしかった。
荷車から魔石が降ろされ、帳簿が走り、金属音が響く。
今日だけで、いつもの数倍。
それが「成果」だ。
「これで何人分死んだんだろうな」
誰かの呟きが笑いに消される。
俺とミークは壁際に座った。
ミークは膝を抱え、指先が小刻みに震えている。
「……さっきの子どもさ」
「俺、靴見た」
「俺たちが炊き出し並んでたとき、前にいたやつと同じだった」
喉が詰まる。
偶然じゃない。
街が集めて、森へ押し出し、魔物へ投げた。
「人買いより安い命だな」
ミークは笑おうとして失敗した。
「金になって、口減らしになって、兵も使わなくて済む」
「考えたやつ、天才だよ」
声が裏返っている。
ラグスが奥から出てきた。
疲労が顔に張り付いているが、目だけが鋭い。
「今日の件、忘れるな」
誰も返事をしない。
「これは事故じゃねぇ。仕組みだ」
「誘導役がいる。場所を流してる奴がいる」
「そしてそいつは、俺たちが生き残るほど困る」
視線が年少組をなぞる。
「お前らは見てる。嗅いでる。拾ってる。もしくは同じように外から来た」
「証拠の山の中を歩いてる存在だ」
空気が冷えた。
「次からはもっと露骨になる」
「火を使うかもしれねぇ。出口を塞ぐかもしれねぇ」
「事故に見せるためなら、なんでもやる」
誰かが唾を飲む音。
ミークが小さく言った。
「……俺たち、消される側?」
ラグスは一瞬だけ黙り、それから答えた。
「ああ」
「都合が良すぎるからな」
沈黙。
上層の鐘が遠くで鳴った。
いつもと同じ時刻。
何も変わらない街の音。
「だがな」
ラグスの声が低くなる。
「簡単には死なせねぇ」
「向こうが仕組みで来るなら、こっちは現場で潰す」
「生き残った証拠を積み上げる」
その言葉に、誰も安心しなかった。
ただ――覚悟だけが落ちた。
その夜、下層のあちこちで小さな火事が起きた。
倉庫。
空き家。
橋の下。
偶然には多すぎる。
霧の向こうで、人の悲鳴が一つ消える。
そしてまた一つ。
誘導は終わっていない。
次は街の中だ。




