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第40話 後片付け

霧が引いたのは、昼を過ぎてからだった。


東門の外には、もう人の列はない。

あるのは踏み荒らされた地面と、血の跡だけ。


騎士団は撤収していた。

最初から長居するつもりはなかったように、きれいに。


代わりに現れたのが――盗賊ギルドだった。


荷車がいくつも並び、無言の男たちが散っていく。

武装は軽い。

だが動きは慣れている。


「回収だ」


短い合図だけ。


俺とミークも混ざる。


森へ入ると、すぐに見つかった。


最初の死体。


引き裂かれた難民の男。

胸元が大きくえぐれている。


その奥で、魔物が一体、まだ息をしていた。


瀕死だ。


誰かが短槍で止めを刺す。


淡々とした動作。


血が跳ねる。


そして腹を裂き、魔石を取り出す。


人の死と、資源回収が同じ流れで処理されていく。


俺の胃が締め付けられた。


「……効率いいよな」


ミークが乾いた声で言う。


「兵を出さずに魔物減らして、ついでに口減らし」


返事はしなかった。


その通りすぎて。


さらに奥へ進む。


木の根元に、子どもの死体。

その先に、老人。

逃げ遅れた者から順に狩られている。


数が多すぎる。


荷車が足りないほどだ。


「これ、ギルドに流れる魔石、相当だぞ」


「上は喜ぶだろうな」


誰かが言う。


そして、別の声が混じった。


「……騎士団から場所の情報が来てたらしい」


「やっぱりか」


「毎回正確すぎると思ってた」


俺は足を止めた。


場所。


時間。


魔物の出没数。


全部、出来すぎている。


偶然じゃない。


誰かが、誘導している。


そしてそれを――売っている。


難民の集結地点。


魔物が集まりやすい地形。


逃げ道のない導線。


戦場の設計図。


ミークが俺を見る。


「これ、人買いよりえげつなくないか?」


言葉が出なかった。


命を直接売るより、死に場所を売るほうが効率がいい。


責任も曖昧だ。


「事故」になる。


さらに奥で、ラグスがいた。


血のついた短剣を布で拭いながら、周囲を見渡している。


目が笑っていない。


「……多すぎる」


誰かが言うと、ラグスは低く返した。


「ああ。誘導が完璧すぎる」


視線が森の外――街の方向へ向く。


「こんな芸当できるのは、騎士団単独じゃねぇ」


沈黙。


「上から流れてる」


その一言で、全員が理解した。


貴族。

商会。

領主側。


街そのものだ。


ラグスは歯を鳴らした。


「下部組織が邪魔なんだよ」


「死体を拾って、生き残りを抱えて、証拠を見てる俺たちがな」


だから潰しに来ている。


魔物と難民を使って。


静かに。


誰にも責められず。


「……戦争の前処理だ」


ラグスはそう吐き捨てた。


俺の背中を、冷たいものが流れる。


これは始まりだ。


街は、もう人を守る場所じゃない。


資源を削り、不要な命を処理する装置になっている。


そしてその下で――


俺たちは、死体を拾う歯車だ。


霧の奥で、また何かが動く音がした。


まだ終わっていない。


次の誘導が、もう始まっている。

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