第四話 指輪
朝が来たら腹が鳴る。
空腹に体を起こされるだけの朝だ。
少年は寝転がっていた木箱の裏を離れ、ふらつきながら路地へ出る。
夜よりは明るいが、朝の光は路地の底までは届かない。
じめっとくすんだ空気が肺にまとわりつく。
まずは昨日の場所へ。
勝手がわかってきたから、動かせる箱や袋も覚えた。
誰かが蹴散らしたであろう残飯置き場。
漁る気配に猫が威嚇してきたが、無視。
猫も少年を無視するようになった。
靴で袋を押さえ、裂け目から手を突っ込む。
昨日より腐っていない根菜の皮、つぶれた豆の粒、カビの端を削ればまだ食べられそうなパンの芯。
“食べられる”ものは、手触りと臭いでわかるようになった。
誰にも教わってないのに。
噛めない硬さは唾で溶かす。
飲み込めるところまで我慢すれば、腹は静かになる。
それで、次の場所へ行ける。
二つ目のゴミ置き場は、工具屋の裏手。
たまに爪先くらいの干し肉が混ざっていたりする。
期待はできないが、可能性は見逃せない。
指先でアイテムをひっくり返す。
壊れた留め具、割れた陶器の破片、つぶれたバケツ……そして、金属音。
拾い上げたのは小さな輪っかだった。
薄い銀色だったはずが曇って黒い。
削れて模様とも傷ともつかない線が入っている。
少年はしばらく見つめたが、特に何も思わなかった。
価値があるのかないのかも分からない。
ただ、食べ物ではない――それだけは即断できる。
食べ物ではないなら置いておくのが普通だ。
でも、人の気配が近づいてきたので、拾ったまま無意識にポケットへ押し込んだ。
本当に、それだけだった。
まだ動けるうちは探す。
三か所目は民家の塀と塀の狭間。
ここには水気を含んだ野菜が落ちていることが多い。
石畳の隙間にこびりついた葉を剥がす。
臭いは強烈でも、新鮮な部分は少しだけ残っている。
少年は食べられる筋を探って口に入れる。
苦い。
でも飲み込めば生きられる。
太陽が差し込み始めると、人が来る。
少年は拾った食べ物の一部を胸の布袋に押し込み、静かに路地を離れた。
ポケットの中身を確認するつもりはなかった。
そこに入れたものが食料ではないことだけ、手が覚えている。
別に大事なものでもない。
落としたらそれで終わりだろう。
いつか腹を満たすために全身の力が必要になったとき、
その輪を握りしめていたことさえ忘れるかもしれない。
少年は喋れないまま、声も考えもぜんぶ飲み込みながら歩いた。
今日の食い扶持は確保した。
それだけで十分だった。




