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第39話 襲撃

東門の外は、思った以上に静かだった。


霧が低く垂れ込み、焼け焦げた木々の影が歪んでいる。

森というより、黒い骨の群れだ。


騎士団は難民たちを街道沿いに並ばせ、いくつかの集団に分けていった。

兵士の声は落ち着いている。


「こちらへ」

「順番に進め」

「動くな」


混乱は起きない。

起こさせない手際だった。


俺とミークは少し離れた丘の陰から様子を窺う。


「……警護にしちゃ、数が少なくないか?」


ミークの囁きに、俺も気づいていた。


鎧はある。

だが、戦列を組む配置じゃない。


人を守る陣形ではなく――流すための導線。


そのときだった。


森の奥で、何かが動いた。


枝が折れる音。

地面を叩く重たい振動。


一つじゃない。


複数。


霧の向こうから、黒い影が滲み出てくる。


牙。

爪。

異様に痩せた獣の輪郭。


魔物だ。


難民たちの誰かが悲鳴を上げた。


騎士団の兵は――動かなかった。


いや、動いた。


だが、前に出ない。


横に開いた。


街道の両脇へ、道を空けるように。


魔物の群れが、まっすぐ人の列へ流れ込む。


「……おい」


ミークの声が震える。


兵士の一人が、淡々と叫んだ。


「走れ!」


その瞬間、秩序は崩壊した。


人が押し合い、転び、踏みつけ合う。

子どもが泣き叫び、荷が散らばる。


だが逃げ道は一本しかない。


街道の先――さらに森の奥へ。


騎士団は後方を塞ぐ形で並び、戻る道を閉じた。


魔物は横から、背後から迫る。


逃げる群れは、自然と前へ前へと追い立てられる。


誘導だ。


魔物を使った、巨大な追い込み。


俺の喉が乾く。


「……殺し合わせる気だ」


戦わせるんじゃない。

逃がしているようで、狩場へ送っている。


弱い人間を餌にして、魔物を奥へ引きずり込む。


そしてそこで――何かが待っている。


ミークが歯を食いしばる。


「これ、戦争のやり方だろ……」


前線を削るための消耗。


兵を出さず、民で敵を削る。


街が、難民を弾薬にしている。


霧の向こうで、悲鳴が次々に途切れていった。


俺たちは動けなかった。


助けに行けば、同じように飲み込まれる。


騎士団はそれを知っていて配置している。


この場は、もう処理済みの現場だった。


そして理解した。


これは事故じゃない。

治安崩壊の結果でもない。


計画だ。


焼けた森へ人を集め、

魔物を誘い、

まとめて消す。


人も、脅威も。


一石二鳥の整理。


遠くで最後の悲鳴が霧に溶ける。


残ったのは、静けさだけ。


そして兵士たちは何事もなかったように隊列を整え始めた。


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