表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/42

第37話 回収役

それから、季節が一つ進んだ。


霧の匂いが変わり、

朝の空気が少しだけ乾くようになった。


難民たちは消えたわけじゃない。

街に溶けた。


体の動く者は次々と連れていかれた。

壁の修繕、倉庫の荷運び、夜警の補助。

兵の数合わせに混じる者もいた。


名前を聞かれることはほとんどない。

契約書もない。


使える間だけ使われ、

怪我をすれば戻される。


それでも全員は吸いきれなかった。


下層区には人が残った。

路地に寝る影が増え、

水場の取り合いが起き、

夜の叫び声が日常になった。


食い詰めた連中は、町の外へ出るようになった。


冒険者。

あるいは、そう名乗るだけの集団。


まともな装備もなく、

地図も古く、

噂だけを頼りに魔物へ向かう。


戻らない者が増えた。


戻ってきても、仲間の数が減っている。


だから仕事が生まれた。


――回収。


死体を運び、

装備を剥ぎ、

記録だけ残す。


生きてる者の仕事じゃない。


支給されたのは短剣一本。

刃は細く、軽い。


皮の服とコイフ。

首元だけを守る最低限の防具。


「冒険者気分だな」


ミークはそう言ったが、笑っていなかった。


街の外れへ出ると、空気が違う。


建物が途切れ、

焼け跡が広がり、

足元には踏み荒らされた草。


《輪郭強化》で地面の凹凸を拾い、

《感覚同調》で風と音を揃える。


《気配感知》は薄く張る。


重く、沈んだ反応がいくつもある。


死体だ。


最初に見つけたのは若い男だった。

胸に爪痕。

剣は途中で折れている。


次は少し離れた場所。

盾だけ残って、持ち主はいない。


「……食われたな」


ミークの声が低い。


装備を集めていると、

糸が不自然に震えた。


死体とは違う。

動きのある反応。


しかも増えていく。


「囲まれてる」


同時に、草が踏まれる音。


影が滑るように迫る。


人だ。

武器を持っている。


距離が近い。


短剣を構えるが、数が多すぎる。


最初の一撃が来る直前、

横から衝撃が走った。


男が吹き飛び、地面に叩きつけられる。


次の瞬間、別の影が倒れる。


ラグスだった。


無駄な動きが消え、

体が戦うためだけに動いている。


敵の間に割り込み、

空間を切り開く。


「走れ」


短い一言。


俺とミークは開いた隙間へ転がり込む。


背後で音が連なり、

すぐに静かになった。


残った連中は霧に逃げた。


ラグスは息も乱していない。


「回収は中止だ」


それだけ告げて歩き出す。


帰り道、ミークが小さく言った。


「……あいつら、待ってたよな」


俺も同じことを考えていた。


死体の場所を知っている。

回収役が来る時間も読んでいる。


偶然じゃない。


誰かが流している。


街の外へ。

そして、街の中から。


人の動きごと。


上層だ。


難民を吐き出し、

外で減らし、

残りをまた下へ落とす。


人を資源として回している。


霧の中で鐘が鳴る。


この街は、戦場になる前に人を削っている。


俺は短剣を握り直した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ