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第36話 案内役

仕事は簡単だと言われた。


人を、決められた場所へ連れていくだけ。


暴れなければ問題なし。

騒ぎになったら離れろ。


それだけ。


集められていたのは下層区の外れだった。


霧の向こうから、いつの間にか増えていた人々。

荷を抱え、地面に座り込み、動かない。


子どももいる。

老人もいる。


誰が連れてきたのかもわからない。


兵士はいない。

役人もいない。


いるのは俺たちと、腕章をつけた自警団だけだ。


ミークが小さく息を吐く。


「また増えてんな……」


俺は人の密度を見る。


《輪郭強化》で通れる幅を測り、

《感覚同調》でざわめきを拾う。


《気配感知》が、いくつも重なって震えている。


不安。

焦り。

怒り。


押せば崩れる集団だ。


案内が始まると、すぐに詰まった。


道は狭く、足元はぬかるんでいる。


止まる。

押される。

怒鳴り声が上がる。


俺は流れを変えた。


遠回りでも広い道へ振り、

詰まる前に止める。


誰も命令は聞かない。

だが、動きだけを見てついてくる。


列が自然と伸びた。


ミークが呟く。


「……人混みさばく盗賊ってなんだよ」


途中で揉め事が起きた。


荷を奪われた女が叫び、

男たちが動く。


《気配感知》に鋭い跳ね。


俺は間に入った。


逃げ道を塞ぎ、追う動きをずらす。


殴り合いになる前に自警団が割って入った。


誰も感謝しない。


流れだけが、また動き出す。


着いた先は囲われた空き地だった。


水桶が数個。

配給の気配はない。


「ここで待て」


それだけ告げられる。


人々は黙って座り込む。


どこへ行けばいいのかも、

いつまでここなのかも知らされないまま。


ミークが低く言った。


「待てって便利な言葉だよな」


俺は空気の重さを感じていた。


ここは避難所じゃない。

溜め場だ。


仕事は終わり。


報酬はいつも通り少ない。


帰り道、霧が濃くなる。


この街は静かすぎる場所ほど危険だ。


戦えなくても、

逃げ道を作っても、

それでも人は減っていく。


強くならなければ、

流される側のままだ。


俺は刻印の感覚を確かめながら、霧の中を歩いた。


この手の仕事が増える。

そんな気配だけが、はっきりとあった。

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