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第33話 返事のない場所
仕事は下見だと聞かされていた。
倉の入口を確認して戻る。それだけのはずだった。
ミークとヴァシュが中へ入り、俺は外で待つ。
刻印を三つ、頭の中で並べる。
気配は糸になり、路地に薄く張りついていた。
最初は、静かだった。
三分ほど経って、糸が歪んだ。
数が増える。金属が触れる音。
中からの合図が途切れる。
ミークが扉へ駆け、俺は壁に手を当てる。
手甲が返すのは、抜けと空洞だけ。
その瞬間、背後の糸も跳ねた。
外にもいる。
路地の両端、屋根の上。
挟まれている。
刻印を増やそうとして、やめた。
四つ目は崩れる。
ここで欲張れば、全部失う。
俺は逃げ道を選ぶ。
板を踏み抜き、排水溝へ落ちる。
ミークが続いた。
背後で何かが叫ばれ、すぐに途切れた。
戻ってきたのは、ミークだけだった。
夜は何事もなかったように静まり、
ラグスは短く言った。
「記録は残すな」
ヴァシュの名は、その夜から口に出されなくなった。
夜。
霧が濃い。
俺は手甲を外し、刻印を見る。
冷たい。
無力ではないが、万能でもない。
三つのスキルは、生き延びるためのものだ。
救うためのものじゃない。
ミークは床に座り込み、何も言わなかった。
俺も、言葉を持たない。
返事のない場所が、また一つ増えただけだった。




