第32話 並べない理由
小さな仕事が終わったあと、俺たちは裏道の外れで息を整えていた。
生還――それだけで、今日は当たりだ。
ミークが先に口を開く。
「なあ。さっきの動き、見たぞ。あれ、刻印だろ?」
俺は答えず、手甲の留め具を締め直す。
視線だけを返す。
ヴァシュが一歩近づき、少し興奮気味に言った。
「並べ替えてましたよね? 刻印。普通、やらないって……」
俺は肩をすくめる。
肯定でも否定でもない。
ミークが軽く笑い、続きを引き取った。
「だよな。刻印ってのは、最初から“揃えて刻む”もんだ。
バラの刻印は効率が悪いし、読み違えると事故る」
ヴァシュがうなずく。
「刻む側も嫌がります。順序が固定できないし、再現性が低いから」
俺は地面に指で線を引く。
並べて、崩して、また並べる仕草。
ミークがそれを見て、眉を上げた。
「……普通は、装備ごとに一つの効果を安定させる。
組み合わせは、最初から完成形にする。
あとから並べ替えるなんて、金も手間も無駄だ」
ヴァシュが少し困った顔で続ける。
「だから、“並べない”んですよね。
教本にも、危険だって書いてあります」
俺は手を止め、首飾りに触れる。
四つ。静かに揃う感触だけを確かめる。
ミークが小さく息を吐いた。
「でも、お前はそれをやってる。
しかも、無理がない」
俺は視線を伏せる。
理由を言葉にする気はない。
ミークは肩をすくめ、軽口に戻した。
「ま、真似しようとは思わねえけどな。
失敗したら、死ぬのは俺だし」
ヴァシュはまだ納得していない様子だったが、
それ以上は聞かなかった。
並べない理由は、皆わかっている。
危険で、非効率で、金にならない。
――それでも俺は、並べる。
口に出さず、
手の中だけで。
刻印は静かに応え、
三つだけが、今の俺に残った。




