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第25話 声なき接点

数日が過ぎた。


路地裏の少年は、相変わらず同じ場所にいた。

動きは少なく、だが無意味ではない。

彼は歩き、拾い、避け、戻る。

それを、二つの立場が別々に観察していた。


どちらも、もう「偶然」だとは考えていない。


最初に動いたのは、貴族側だった。


理由は単純だ。

危険度が低い。

そして、間違いが起きにくい。


炊き出しでも、衛兵でもない。

路地に慣れた執事が一人、昼間の通りで少年の進路に立った。


避けられると思っていた。

だが、少年は一瞬だけ歩調を落としただけで、止まった。


視線が上がる。

警戒はある。

しかし、怯えすぎてはいない。


喉を震わせるような呼吸。

口が動くが、音は出ない。


執事は、その様子を見て確信した。

――噂は正しい。


「安心してほしい」


ゆっくり、街の言葉で話す。

命令ではない速度。

拒否されたら下がれる距離。


「話を聞くだけでいい。返事は要らない」


少年は瞬きを一度した。

理解しているかどうかではない。

逃げる必要がない、と判断しただけだ。


執事は、袋を差し出した。

中には、乾いたパンと塩漬けの肉が少し。


少年は受け取らなかった。

すぐには。


数秒の沈黙のあと、首飾りを握る指が強くなる。

それから、両手で袋を受け取った。


深く、頭を下げる。


言葉はない。

だが、それで十分だった。


「また会おう」


執事はそれ以上、何も言わずに立ち去った。


その一部始終を、別の影が見ていた。


盗賊ギルドの下っ端ではない。

観察役だ。


少年は逃げなかった。

食料を拒否しなかった。

だが、すがりもしなかった。


――使える。


そう判断するには、もう材料は揃っていた。


喋れない。

刻印を拾う。

盗みは上達している。

外に興味を示している。


そして、貴族が先に目をつけた。


「面倒になる前に、押さえる」


その日のうちに、次の指示が出る。


接触は夜。

一人。

脅しは不要。


逃げるかどうかを見ればいい。


少年は、まだ知らない。


昼に差し出されたパンが、

夜に向かって伸びる手の予告だったことを。


ただ、生き延びただけのつもりで、

いつもの路地へ戻る。


影が一つ、壁から剥がれた。


「――おい」


低い声。

逃げ道を塞ぐ位置。


少年の肩がわずかに強張る。


ここから先は、

もう「見られている」だけでは済まない。


世界が、彼に触れ始めていた。

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