第21話 評価
炊き出しが終わったあとも、執事はその場を離れなかった。
人々が散り、広場が静けさを取り戻していく中で、どうしても一人の少年の姿が頭から離れなかった。
みすぼらしい身なりの孤児。
だが、その立ち姿だけが不釣り合いだった。
背筋が伸び、列の中で無駄に動かない。
前後を警戒する様子もないのに、注意は周囲に行き届いている。
食料を受け取るときの所作は簡潔で、感情を表に出さない。
「……教育を受けていますな」
執事の呟きに、護衛が一瞬だけ眉を動かした。
「孤児にしては、ということですか」
「ええ。商家の小僧か、没落した家の子に近い。
少なくとも、路地裏育ちの動きではありません」
「声を出しませんでした」
護衛の指摘に、執事は静かに頷く。
「意図的な沈黙ではないでしょう。
欠損か、深い混乱。いずれにせよ……気になる存在です」
少年が路地の奥へ消えた方向を、執事はしばらく見つめていた。
「調べなさい。
目立たぬように」
それ以上の言葉は必要なかった。
その頃、別の場所でも、同じ少年の名が出ていた。
最近、裏通りでの小さな盗みが減っている。
その代わり、刻印の刻まれた装備の廃棄が妙に“整理されている”。
報告書をめくりながら、盗賊ギルドの男が言った。
「拾い方が変わったな」
「価値のある刻印だけ抜いている。
しかも、適性のないものには触れていない」
「独学だろう?」
「間違いない」
書類には、簡素な人物像が添えられていた。
痩せた少年。
年齢は十代前半。
黒髪、くすんだ色合い。
栄養不足は明らかだが、目だけは妙に落ち着いている。
「教育あり、か」
誰かが小さく笑う。
「逃げ足がいい。
刻印の選択も、感知と回避に偏っている」
「攻撃系は?」
「なし。今のところ」
室内に、短い沈黙が落ちる。
「……盗賊向きだな」
「声が出ないのも、都合がいい」
「身寄りなし、だろ?」
結論は早かった。
「勧誘対象に昇格だ」
書類は束ねられ、棚に収められる。
少年はまだ、自分が見られていることを知らない。
ただ生きるために、刻印を拾い、組み合わせているだけだ。
だがその夜、
彼は確かに“評価された”。
路地裏の孤児としてではない。
使える存在として。




