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第19話 ガラクタたち

冒険者という存在が、気になり始めていた。


理由は単純だ。

あいつらは外に出て、生きて帰ってくる。


門の近く、酒場の前、掲示板のそば。

俺は物陰から、彼らを眺めていた。

剣を持つ手、鎧の擦れ、仲間同士の距離感。


(……ゲーム、みたいだな)


不意に、そんな言葉が浮かぶ。

意味はぼんやりしている。

前世の記憶――日本での何か。

冒険者を画面越しに見ていた気がする。


でも、思い出そうとすると霧がかかる。

名前も、内容も、輪郭だけを残して消えていく。


(知識だけ、残ってるのか)


だからこそ、興味を持った。

あいつらは特別なんじゃないか、と。


しばらく眺めたあと、俺は視線を逸らす。

近づく気はない。

今は、まだ。


足が向いたのは、いつものゴミ捨て場だった。

店や工房がまとめて廃棄を出す場所。

壊れた道具、欠けた装備、意味不明な部品。


無意識に、指が動く。


布切れに包まれた短剣の柄。

歪んだ金属板。

割れた留め具のついた革帯。


全部、使えない。

でも、捨てるには惜しい感じがした。


俺はそれらを抱えて、寝床に戻る。

壁と箱で作った、俺だけの場所。


一つずつ、触れていく。


触れた瞬間、頭の奥がざわついた。


文字――いや、文字になり損ねた“何か”が、脳裏に浮かぶ。

曲線と点、線の重なり。

意味はない。

読むこともできない。


でも、「刻まれている」感覚だけは、はっきりしていた。


(……刻印?)


そんな言葉が自然に出てくる。

前世の知識か、この世界の常識か。

わからない。


革帯の刻印に意識を向けた瞬間、弾かれる。

頭が痛くなり、視界が白く飛んだ。


(合わない)


理由は不明。

でも、確信だけはあった。


短剣の柄も同じだった。

触れた途端、何かに拒絶される感覚。


最後に残ったのは、歪んだ金属板。

表面に、ほとんど消えかけの刻印。


意識を向ける。


今度は、拒まれない。


胸元の指輪が、微かに熱を持つ。

同時に、頭の中で二つの刻印が重なる感覚。


単体では意味をなさない。

断片。

欠片。


でも――


重なった瞬間、形になる。


線がつながり、流れが生まれる。

文字ではない。

でも、理解できる。


(……ああ)


息を呑む。


この世界の魔法は、「覚える」ものじゃない。

装備に刻まれた刻印を、使い、感じ、

身体と頭に“写す”ものだ。


そして――

刻印同士は、組み合わさる。


適性が合えば、定着する。

合わなければ、弾かれる。


俺の指輪は、感覚を拾う刻印。

金属板の刻印は、流れを整えるもの。


合わさった結果、俺の中に残ったのは――

ほんの、ほんの微かな知覚の拡張。


視界の端で、空気の揺れがわかる。

背後の“空き”が、少しだけ感じ取れる。


(……盗賊向けだな、これ)


思わず、そんな考えが浮かんで、

俺は小さく鼻で息を吐いた。


笑ってはいない。

でも、悪くない気分だった。


(ルールは、わかった)


この世界は、理不尽だけど、完全な運任せじゃない。

拾って、試して、合えば残る。


俺みたいな孤児でも――

積み上げられる余地がある。


指輪を撫で、ガラクタを脇に寄せる。


冒険者になる気は、まだない。

でも、あいつらが使っている“力”の正体は、見えた。


次は、もっと集めよう。

刻印を。


生きるために。

そして、逃げ切るために。

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