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第18話 情報収集

腹に少しだけ物が入ると、体は露骨に変わった。

痛みが消えるわけじゃない。

でも、動こうと思ったときに、体が応えてくれる。


それだけで十分だった。


食べきれなかったパンを布に包み、路地の奥へ移動する。

同じ場所に長くいるのは良くない。

殴られた後ならなおさらだ。


歩きながら、耳に意識を向ける。

目じゃなく、足でもなく、音と気配に。


――聞け。

――覚えろ。


誰に言われたわけでもないのに、頭の奥でそう繰り返していた。


市場の近くは避けた。

人が多すぎる。

代わりに、酒場の裏、倉庫の軒下、共同井戸のそば。


人は、油断すると喋る。


「……最近さ、炊き出しが増えたってよ」


女の声。

洗濯物を干しながらの、どうでもいい噂話。


「また貴族様の気まぐれ? 前もすぐ終わったじゃない」


「今回は違うって。孤児とか、怪我人とか……場所は東区らしい」


東区。

聞いたことはある。

治安は悪いが、外れよりはましな場所。


俺は壁に背をつけたまま、息を殺す。

場所、時間、条件。

全部が曖昧だ。


でも、「食い物が出る」という情報だけは、確かに胸に残った。


別の場所では、冒険者らしい男たちの声が聞こえた。


「昨日、門の外でガキが騒ぎ起こしたって?」


「衛兵が殴ったやつか。外に出たらしいな」


心臓が一瞬跳ねる。

俺のことだ。


「命知らずだな。外はもう……」


その先は聞こえなかった。

別の話題に流れていった。


(俺は、噂になる程度には目立ったらしい)


それはまずい。

良くない兆候だ。


冒険者たちは装備も体力もある。

なのに外を警戒している。

なら、俺が出る場所じゃない。


また別の路地で、孤児らしい子どもたちを見かけた。

俺より年下も、同じくらいのやつもいる。


声をかける気にはならない。

近づけば、奪い合いになる。

それくらいはわかる。


だから、遠くから観察する。


どこで集まり、どこを避けているか。

誰に殴られ、誰に無視されるか。


俺は少しずつ、町の“安全じゃない地図”を頭の中に描いていった。


そして、気づく。


音が、少しわかりやすくなっている。

足音の重さ。

人の密度。

視線が向けられた瞬間。


はっきりとは説明できない。

でも、昨日より判断が早い。


胸元の指輪に触れる。

理由はわからない。

けど、無関係じゃない気がした。


(生きるには、食い物と……情報だ)


俺は今日、盗まなかった。

その代わり、覚えた。


炊き出しの噂。

冒険者の警戒。

孤児の動線。


動けるようになったからこそ、見えてきた現実。


この町は、優しくない。

でも、完全に閉じているわけでもない。


――隙はある。


それを見つけられるかどうかが、俺の生死を決める。

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