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私の幼馴染が髪を上げたら物凄いイケメンだった件

作者: 日本語
掲載日:2026/01/03


私の名前は佐藤結衣。

私の友達や知り合いはほとんどゲーム仲間で女子としか交友関係がないけど、一人だけ幼馴染の田中健太という男子がいた。健太は幼稚園からの幼馴染で、徒歩30秒でお互いの家に着くくらい近い。身長は179㎝で体型は瘦せ型。運動神経はそこそこ。スペックだけ見ると優秀だが、健太は髪が目に掛かるまで伸ばしていて、THE根暗という髪型をしていた。一回も髪を上げているところを見たことがなく、お願いしても見せてくれない。髪を上げればモテそうなのにと、少し勿体ないと思っている。性格は基本大人しいけど、仲良くなった相手には冗談を言ったりする。陰キャだ。


私の親と健太の親が仲がいいため、彼とは月に一回親を交えて食事を共にしたり、たまにオンラインでゲームをしたりする。とはいっても、私は彼を異性として認識したことはなく、腐れ縁の男友達と思っていた。


小学校、中学校は同じではなかったが、なんの偶然か同じ高校に進学し一緒のクラスになった。

クラスでは分からないところをたまに聞き合ったり、ゲームの話をしたりする。


「健太、さっき分からないところがあったんだけどこの問題分かる?」

「この問題か? この問題は因数分解をしてだな……」


私はTHE文系で数学が特に苦手だ。元々数字にあまり興味が無くて、公式などが頭に入ってこない。健太は数学オタクなので、よく健太に数学の分からない問題を聞いていた。

数学は出来ないものの、私は国語が来た。詩を書くのも好きで、詩のコンテストに応募して入賞したこともある。国語で間違えることがある時は、漢字の書き取りや古文の知らない単語が出て来た時くらいでそれ以外は間違えた経験がない。

健太は数学は得意なものの、国語は大の苦手だったので私はよく国語の課題を手伝っていた。まさにWIN-WINの関係って奴ね。


中間テスト。

私と健太は国語と数学の合計点数で勝負をすることになった。

私達はよくFPSゲームをやるように勝負事が好きだったので、私が提案をすると健太は直ぐに了承した。

この勝負で負けた方は買った方がファミレスで料理を奢ることになっている。

絶対に負ける気はなかった。ただ飯は最高だし、なりよりFPS好きとして勝負ごとに負けるわけにはいかないのだ。


テスト期間中の放課後。私は教室に残って勉強をしていた。勉強内容は数学。勝負相手である健太も教室に残っていた。教室にいるのは私達以外だと真面目な子が男女共に一人ずつ。家に帰ることなく教室で勉強するなど敵ながらあっぱれ。敵として不足無し。私の圧倒的な点数で粉砕してあげよう。


数学の問題をあるとこまで解き終わり、ぽつんと集中力の切れた私は席を立つ。

健太の勉強している机の前まで行って、敵情を視察する。ふむふむ。彼はテスト範囲である古文の参考書をやっているようだ。


「どうかしたか?」


じろじろと机を見ていたせいか、健太が懐疑な目で私を見ていた。


「健太のことだから、勉強している振りをしてスマホゲームをしてないかなって思って見に来たの」

「どんな印象だよ。俺がテスト期間の間にゲーム何てするわけないだろ」


キリっとした顔でそう言うと、ポッケからスマホを取り出した。アプリをタップすると、愉快なBGMと共にスタート画面が出た。


言ったそばからじゃない。

そうツッコミを入れると、ツッコマれたのが嬉しいのか楽しそうに笑った。その笑顔につられて私も笑う。


二人して笑っていると、ビュー、という音を添えて突風が吹いた。


いたっ。

右目に痛みが走った。

下を向く。


「ヤバい、土が目に入っちゃったかも」


土の入った右目から涙が出て来た。

すると、健太が私の肩に手を置いた。


「一旦、蛇口まで行くぞ」

「」


そこにはとてつもないイケメンがいた。

綺麗な肌。大きく黒い瞳は宝石のように輝いていて、呆然とした私の姿が映っている。フェイスラインはシュッとしており、鼻は小さく、顔のパーツは左右対称で整っている。髭は生えておらず、赤色の唇が艶やかに光っている。

映画俳優に引けを取らない美貌に、綺麗だなぁ、と思っているとイケメンが顔を近付けて来た。

芸術品のような顔が近付いて来て、後ろへ体が跳ねた。


「なにしてるんだよ。はやく蛇口にいくぞ」


やべっ、髪上がってるじゃんと言いながらイケメンは突風で上がった髪を降ろす。

下した髪をわしゃわしゃとすると、そこには私のよく知る健太がいた。

え、え、あのイケメンが健太なの? 


いつも髪を目に掛かるほど伸ばしているが、まさかこんな美貌を隠していたなんて。フェイスラインや顔のパーツは整っているなと思っていたけど。


そのまま健太を見ながらぼーっとしていると、蛇口まで来た。

健太が蛇口をひねり、ジャー、とした音ともに水が流れる。


そういえば、目痛かったんだ。

手で御椀の形を作り、お椀に水を貯めて、目を水に近付ける。そのまま何度か目をぱちぱちと閉じたり開いたりした。

何度かしていると、違和感こそあるものの目の痛みは引いていた。土や砂が取れたのかもしれない


「大丈夫か?」


健太が真剣そうな声で私を見る。髪で見えないが、あの大きな瞳が私を見つめているのだろうかと思った。


「大丈夫。ありがとね」

「それならよかった。風強くなってきたし、窓は閉めたほうがいいかもな」

「そうだね」


健太と隣同士で教室まで歩く。

ずっと健太の顔を眺めていたのだけど、健太がそれに耐えかねたのか聞いて来た。


「なんだよ、さっきから俺の顔をそんなに見つめて。おかしいところでもあるか?」


風で髪型がおかしくなったのかなー、ともう一度わしゃわしゃ髪を動かした。一瞬髪の隙間から見えた瞳は黒く大きく、あのイケメンと同じ瞳をしていた。健太をイケメンとして捉えると、声質は変わっていないはずなのにどこかかっこいい声に聞こえる。


もう一度あのイケメンを見たい。

私は健太の腕を掴んで迫った。


「ちょっと髪上げて」

「え、やだ」

「…お願いだから髪上げて」

「無理」


即答だった。そういえば、健太は昔から髪を上げてとお願いしても上げてくれることは無かった。

幼馴染なんだし、その美貌を見せてくれてもいいじゃないか。見たって減るものじゃないんだし。


今度は頬を分かりやすく膨らませる。怒ってるんだぞというアピールだ。子供っぽいなと自分でも思ったけど、どうしても健太の髪を上げた姿をもう一度見たかった。

すると、無造作に頬を手で挟まれて凹まされる。ぷしゅーという情けない音が、自分の口から聞こえた。


むー。


「このままだと気になって勉強できない。ねぇ、私がこのまま勉強できないで赤点を取って退学してもいいの?」

「何でそうなるんだよ。それに嫌なものは嫌なの。俺は髪を下げてないと死んでしまう生き物なんだ」

「えい」


背伸びして健太の前髪を掴んで上げた。相手が諦めないのなら残るは実力行使のみ! 

そこには絶世のイケメンがいた。髪はショートが好みだが、それ以外は私の理想通りのイケメンだ。スマホを取り出して写真を取ろうとすると、即座に手を離され、額にしっぺを受けた。いてっ。


「何するの!?」

「それはこっちのセリフだ。髪を上げるばかりか、写真まで撮とうとしやがって」

「待ち受けにするだけだからいいじゃん」

「余計駄目だからな!? 待ち受けにされるとか恥ずか死するわ。俺の髪のことは置いといて、そろそろ勉強に戻るぞー」

「ちょっ、待ってよ」


私から逃げようと教室まで早足で歩く健太。

健太は180cm近くあるので、一歩一歩がでかいのだ。同じように早足で歩いても追いつけない。

放課後なこともあり廊下を歩く生徒はいないので少し走ってもいいだろう。スカートの揺れを気にせず走って健太を追い抜く。私はまだ写真を撮るのを諦めていない。後に先延ばしにすると、今までの経験上惚けられて逃げられる。そこで、教室に入る前に終わらせる必要があった。健太の前に先回りすると、両手を広げた。


「写真を撮らせてくれないと、ここは通さないよ」

「何がそこまで結衣を動かすんだ! 写真は嫌だぞ」

「一枚だけ。……本当は十枚くらい欲しいけど、一枚だけでいいから」

「だが断る」


一度立ち止まった健太がそのまま進んでくる。

強硬突破をするつもりだ。

うぐぐ、勝てるとは思わないけど気持ちでは負けないぞ。


前に進もうとする健太を必死に押し返す。

気合のせいか意外となんとかなっている。

しかし、均衡は私が脚を転ばせたことで、呆気なく崩れた。


「全く、危ないな」


気が付いたら健太に引き寄せられていた。

偶然だが、私は健太と抱き合っている。服越しに伝わる厚みのある胸板。ほどよい硬さと安心感があった。軽く筋トレをしているのだっけ。柔軟剤の甘い匂いと、少し汗の匂いがする。嫌な匂いではない。


謎の安心感から離れずにいた。


「……いつまでこうしてるんだ?」

「え?」


困惑したような呆れたようにも聞こえる声。

あれ、私何してたんだ? 付き合ってもいない男子と抱き合っている状態っておかしくないか。引き寄せられて抱き合ったのは仕方がないとしても、離れないで抱き合っているのは変だよね?


急に恥ずかしくなってきた私は、即座に離れた。

顔紅くなっていないだろうか。

健太に見られるのが恥ずかしくて、俯いた。



あの日以降、健太を目の先で追うようになった。気が付けば健太を探していて、視界に収めている。そうして眺めていると胸が温かくなった。


私が自分の気持ちを自覚するのは幾分か後のことだった。


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