失う命との向き合い方
命の向き合い方、ルドはどう向き合うのか。
それから、ルドは患者の声を聞くように治療の手伝いに奮闘する日々が続いた。
「痛い!痛い!!」
「ルド君、足を押さえて!」
暴れる患者の足を抑えるルドの頬に血がついたが、ルドは言われた通りに足を強く抑えた。
「さて、ちょっと治療するからねー。痛くないように麻酔は打ってるから」
リランが魔法で小さな刀のようなものを作り出して手に握った。麻酔が聞いてるとはいえ、意識がある中で治療される恐怖から、患者は暴れだした。
「ちゃんとしっかり押さえててね」
マレンが上半身に覆い被さるように馬乗りになっていた。
「ぎゃああああ!!痛い!痛い!!」
「痛くないよー麻酔効いてるからね。傷口が壊死して腕ごと無くなる方が痛いんだよ」
リランが、話しながら怪我をした腕の傷口を綺麗にメスで切り取ると血が床に落ちる音がした。
「ルド君しっかり見なさい」
視線を下げるルドに、リランが治療を続けながらルドに話した。
「はい……」
「もうちょっとで、終わるからね」
暴れる患者に、ルドが必死に足を抑えるが蹴り飛ばされ床に尻もちを着いた。
「すぐ立ち上がりなさい」
リランの指示でルドが立ち上がると、唇が切れて血が滲んでいた。そのまま、リランに言われた通りに足を抑える。
「よし、後は縫合して…終わり!」
マスクを外すリランに、ルドはほっとし押さえてた足から手を離した。あとの包帯や消毒などをマレンに指示を出すと、リランは手術室を後にした。
「ルド、お疲れ様」
「マレンもお疲れ様」
休憩室の椅子に座ると、ため息を漏らすルド。その隣に座り、暖かいハーブティーが入ったコップをルドに手渡した。
「今日の患者は、人間の国で罠にかかって、捕まる寸前で逃げた時、放たれた弓矢が、毒矢だったのよね。早く取り除かないと、腕ごと切断になってたの」
ハーブティーに口をつけるマレンに頷くルド。
「今は安定して、病室で眠ってるから安心して」
「よかった…」
ルドがほっとしていると、バタバタと廊下を走る足音がすると、休憩室の扉が乱暴に開いた。
「マレンさん!さっき手術が終わった患者が、急変しました!すぐ来てください!」
ガタンと椅子から二人が立ち上がると、廊下を走り患者の部屋に急いだ。
「リラン先生には、伝えた?」
「はい。今、別件で手術室に…」
「どれくらいかかるか、すぐに調べて!」
マレンがマスクをつけると、ルドは苦しみ暴れる患者に部屋の前で立ち尽くしていた。何をすればいいのか、頭が真っ白になり手がガタガタと震えていた。
「ルド!無理なら今すぐ病室から出ていきなさい!」
マレンの怒号に、我に返ったルドが白衣を着てマスクをつけて病室に足を踏み入れた。
「マレン、俺は何をしたらいい?指示を出してくれ」
「…分かったわ。薬剤室からこの薬と点滴、それから心臓を止まらない薬を…」
ルドに紙を渡すと、ルドが部屋を出て薬剤室まで全速力で走った。患者を助けたい気持ちがルドの背中を押したのだ。
「…マレンさん」
「駄目よ…貴方はまだ死んでは駄目なの!」
薬は子を手に病室に戻ると、マレンが治療魔法を使いながら、患者の心臓を押す姿を見て、ルドは駆け寄り患者に声を上げた。
「貴方を待ってる人がいるんだろ!」
ルドがマスクを外して手を握り、叫んだが患者の心臓は、動くことがないまま、手術室が終わったリランが病室に急いで入ると何も言わないまま、患者の診察をし死亡したと皆に伝えた。ルドは、まだ手の温もりがあるのに諦めて終わりなのかと、リランを見上げた。
「リラン先生、まだ患者の手は温もりがあります。それを諦めるのは違うと思います……」
「ルド君、そうだね。死後硬直が始まる前まで、体の温かさが残るんだ。少しずつ、全身の血液の供給が止まり、冷たくなっていくんだよ」
「それでも、俺は諦めれないんです!」
ルドは分かっていた。救える命と救えない命の難しさや、その向き合うことも。けれど、分かっていても、いざ目の前で患者が亡くなったことに、頭と気持ちが追いつかず、ルドは首を左右に振っていた。
「ルド君の気持ちは、我々だって同じだ。だけど、出来る領域は限られている。神のような奇跡を起こせるそんな治療があるわけでもないんだよ。できる治療をして、それでも、駄目な時もあるんだ。それが命の尊さと向き合うってことなんだよ」
リランが、ルドの肩を優しく掴むとルドは肩を小さく震わせていた。
「死者を送る準備を、マレンとルドがやりなさい」
リランが二人に指示を出すと、マレンが、床に座り込んだルドに手を差し伸べた。
「手伝って、ルド」
「────……」
部屋から出る際も、ルドは後ろを気にしながらマレンの後を、ルドは付いて歩いた。廊下を出て二つ目の部屋に中に入ると、小さなワゴンを押してマレンがルドに指示を出す。
「私は熱いお湯を組んでくるから、ルドは乾いた小さなタオル、ブラシと、綺麗な寝巻きをそのバスケに入れておいてね」
お湯を組みに行ったマレンの後ろ姿を見て、ルドは言われた通りにバスケット中にタオルやブラシなどを、無言のまま詰め込んでいると、マレンが帰って来て新しい、エプロンをルドに手渡した。
「これに着替えたら、病室に戻るわよ」
ワゴンを押して病室に入ると止まった機械を前にルドがエプロンの裾を鷲掴みに握った。
「今から管を抜きますね。失礼します」
マレンが、一言、また一言、患者に言葉を添えて、点滴の針を抜いたり、繋がった管を抜いた。
「今から、体を綺麗に拭きますね」
銀の桶に、水差しに入った熱いお湯をタオルで濡らし固く絞るとルドに差し出した。
「患者さんと最後まで向き合うのが、私たちの仕事よ」
マレンの真剣な顔に、渡されたタオルを手に患者の前に立った。マレンが体を拭く際も、ゆっくり丁寧に体を拭く姿に、ルドも自然と言葉を漏らした。
「最後までよく、頑張りましたね…」
ルドの震える声と、精一杯の声掛けだと、マレンも言葉をかけながら最後に髪を整え、手を前に結んだ。
「汝の健やかな眠りを神に捧げます」
マリンが膝を着いて祈りを捧げると、患者の家族が病室に入ってきた。後ろにはリランが立っていた。
「お父さん!お父さん!起きてよ!」
「あなた!!」
泣き崩れる姿に、ルドも涙がこぼれ落ちると、患者の家族がルドの手を握り応えた。
「最後まで、ハリスは…主人は頑張ってましたか?」
「はい…」
「ありがとうございました…こんなに穏やかに眠るようなハリスを見れて、本当に感謝します…」
お礼を言われてもルド中で、生きて家族の元に帰せれなかったことに、胸が張り裂けそうになっていた。
「すみません────……」
ルドが謝ると、患者の奥さんが手を握り首を左右に小さく降って答えた。
「いいえ。皆様のお力がなければ、こうして主人にも会えずじまいでしたわ。最後に穏やかに旅立つ主人と会えたことが、私たちはよかったと思っているんです……」
ルドはどうしていいのか分からず言葉が、出せないまま立ち尽くしていると、リランがルドの肩に手を置いた。
「最善を尽くしましたが、命を繋ぎ止められなかったのは、我々の力不足と言われても、お言葉を返すことも出来ません。ですが、私の弟子たちは怠慢な医療をしていないと、私は信じております」
リランの言葉にルドは、頭を下げるしかなかった。そうして、ルドの中でまた1つ大きな選択をする日になるのでした。




