決闘の申し込み
オッターが自分に剣の稽古をつけてくれる日の朝、ルドは待ちに待った剣を握れると思っていたのだが、剣を握るにはとオッターから課題を出される。果たしてルドはその課題を突破できるのだろうか?
剣の稽古が始まる朝、今日から剣の稽古に参加する許可が降りて朝からルドは、機嫌がよかった。マレンに訓練所まで案内をしてもらうと、訓練所の広場では他の獣人たちが、木剣を握りしめ型の振り下ろしをしている姿を見て、ようやく自分も剣を握れるんだと、ルドの瞳がキラキラと輝いていた。
「オッターはすぐ来るわ。そこのベンチで座って皆の素振りでも見てなさい」
「マレンありがとう」
ルドにありがとうと言われて、少しくすぐったく感じたマレンの表情に、ノワールが素振りをしながら二人を見て苛立ちを覚えていた。
「ルド、お前はこっちだ。着いてこい」
オッターがルドに声をかけると、自分は皆と素振りが出来ないのかなと思いながら、オッターの後を着いて歩いてると広い森の開けた場所で止まった。
「オッター、俺も皆と素振りがしたい」
「木剣を握る許可は、お前にはまだ出せない」
振り返って答えるオッターに、食い下がるルド。オッターの姿が急に消え、ルドが周りを探してるほんの数秒、瞬きをした瞬間ルドの首元に、短剣が突きつけられていた。
「何が足りないか分かるか?」
短剣を引いて鞘に短剣を直すと、オッターがルドに話を続けた。
「お前に足らない基礎を今から、一ヶ月で習得してもらう。出来ないようなら、お前には雑用しかさせない」
「そんな!オッターが剣の稽古つけてくれるって…」
「甘えるな!その考えがお前の弱さであり、命とりになることに気付かないようなら、木剣すら握る資格はねーんだ!遊びで剣を握るのか!」
オッターの気迫に、ルドの体にビリビリと気迫が伝わると体が後ろによろけた。基礎もなければ、体力もなく、精神力もないルドに、ただ木剣を振っても、子供の遊びでしかないことに気付いたルドは、言葉に詰まり黙っていた。
「お前に習得してもらうのは、無だ」
「無…?」
「そうだ。簡単に言えば俺がさっき気配を消した、無の習得をお前にもやってもらう」
「俺には出来ないよ…」
「甘ったれるなと言っただろ!」
ビクッと震えるルドに、オッターが芝生にドカッと座ると、足を組んで座った。
「今から、見て覚えろ。一回しか見せない、質問にも答えない。自分の頭で理解して考えるんだ」
オッターが目を閉じて、深く息を吐いて、ゆっくり肺に酸素を送り込むと、心の臓の鼓動や呼吸の音すらも聞こえなくなり、森に静寂が流れた。森の鳥たちがオッターの肩や足、頭に鳥が何匹も止まり、まるで止まり木のようなオッターの姿にルドは驚いて見ていた。ゆっくりとオッターが目を開く。
「猶予は、一ヶ月だ」
オッターが立ち上がると、バサバサと鳥たちが一斉に羽ばたいた。ルドはあまりの一瞬の出来事に、訳が分かるはずもなかった。そのままルドを森に置いていくと、オッターは後ろを振り返らないまま、訓練所まで戻って行った。
「とりあえず、オッターの見よう見まねで、やるしかないか…」
ルドは、芝生に座ると足を組んで目を閉じた。オッターがやっていた呼吸を試したり、意識を集中させた。が、最初からすぐに成功する訳もなく、マレンがお昼の時間とルドを呼びに来ていた。
「オッターと何が違うんだろ…」
お昼のサンドイッチを口に頬張りながらぼんやりと、考えてるルドの姿を見てマレンが、一言だけ話した。
「自分に無いものを探す」
「え?」
ルドが驚いた顔でマレンを見上げると、食べ終わったトレーを持ち上げて返却口にトレーを置くと食堂から訓練所まで歩いて行った。
「俺に無いもの…探す…」
ルドは、何かに気づいたのか口にサンドイッチを口に詰めこむと足速に森の広場へと、走って行った。
「これで、見つけたらルドは天才よ」
「そうだな」
嬉しそうに笑うオッターに、意地が悪い顔してるとマレンに突っ込まれたオッターは執務室に向かうのだった。
ルドは、それから変わったように朝日が昇る前に起きては森の中を走り、体力を付けようと筋トレをしたり、昼まで瞑想を続け、夜も寝る時間まで部屋で腹筋や、腕立て伏せを続けていた。
「ルド、入るわよ」
部屋のドアが開くとマレンが暖かいミルクを持って部屋に入ってきた。ルドがちょうど、腕立て伏せが終わり上半身が裸のままの姿にマレンが視線を下げた。テーブルにカップを置くと、マレンが扉のドアに手をかけた。
「マレンいつも、ありがとう」
ルドのありがとうを聞くと、マレンの尻尾が膨らんで顔が熱くなる。不思議な感覚に別にと素っ気なく答えた。
「あ!マレンちょっと教えて欲しいことがあるんだ」
ルドに手を突然捕まれて、驚いた拍子にマレンが顔を見上げるとルドの顔が近すぎて、マレンが手を振り落とした。
「ごめん…」
「別に…で、何?聞きたいことって」
「無の習得って出来る?もうちょっとで、感覚っての?掴みそうなんだけど、考えれば考えるほど、出来なくって」
ルドが自分の髪の毛をくしゃくしゃと掻き分けると、約束の日までは、まだ20日も残ってるのに、マレンはびっくりして、ルドの顔を見ていた。
「出来るけど…」
「お願い!一回だけ見せて欲しいんだ!」
頭を下げるルドを見て、マレンはルドの中で何かが変わろうとしてるんだと、その気持ちにマレンも答えた。
「分かったわ。一回だけね」
「マレンありがとう!」
「…すぐ手を掴まないで!」
「あ、ごめん、つい…」
マレンが咳払いを一つ零すと、気配を消した。背後に回ろうとした瞬間、ルドが振り返ってマレンの手を掴んだ。驚いたマレンは固まったまま、ルドを見上げた。
「そうか、そういう事か…」
自分もやって見せたいと、マレンに頼み込むと、出来るならと言われたルドが、息を深く吸いんだ瞬間、ルドの気配が一瞬で消えた。
「マレンの毛色って、桃色かと思ったら、少し濃い赤色の毛色も混じってるんだね」
ルドに襟足を触られて、鳥肌が一気に立ったのかマレンが、しゃがみ込むと変な声が家中に響いた。
「ひゃあああっ!!!」
二階にいたノワールが、慌てた様子で部屋が飛び出す音ともに階段から転げるように降りてきた。そのまま、ルドの部屋まで突っ込んでくるように、扉を乱暴に開けた。
「てめぇ!マレンに何をした!」
しゃがんで頭を押さえて蹲るマレンの姿を見たノワールが、顔を真っ赤にして突っ込んでくるノワールの拳がゆっくりに見えて、マレンの肩を軽く引き寄せると、ノワールは床に顔面から滑って転んでいた。
「マレン大丈夫?」
「な、何ともないわ…」
ルドがマレンに話しかける姿に、嫉妬を爆発させたノワールが吠えた。
「もう我慢ならね!お前に決闘を申し込む!」
「俺?」
「お前しかいないだろうが!明日、逃げんなよ!」
乱暴に部屋の扉が閉まると、マレンの顔を見て目をぱちぱちさせるルド。マレンも、我に返り恥ずかしさで、慌ててルドの部屋を足速に出て行ったのだった。
まだまだルドの成長編が続きます!




