スラム街
スラム街に足を踏み入れてしまったフィオーレ。帰りが遅くなり慌てて走っていると、見知らぬ男たちに絡まれてしまうのだった。
暫く街中を歩いてると、賑やかな民たちの声が小さくなり陽の光が当たらない薄暗い場所までフィオーレは歩いていた。鼻につくカビの匂いやお酒の匂い色んな匂いにフィオーレは嗅いだことがないような匂いに、鞄からハンカチを取り出すと口元を押さえた。
「お姉ちゃん、僕のお家ここだよ!」
ギギッと男の子の家の戸を開ける音は、木が軋むような嫌な音と、床を踏む度に、ギシギシと床鳴りがしていた。
「こっちにの部屋で、かーちゃんが寝てるんだ」
手を引っ張って家の中を案内してくれる少年にフィオーレが、狭い廊下をキョロキョロと見渡していた。
「かーちゃん!ただいま!」
ボロボロのベッド寝ていた少年のお母さんが目を開けると、男の子の姿を見て慌てて体を起き上がらせた。
「ダリーどこに行ってたの!」
「かーちゃんごめんなさい…」
男の子がフィオーレの手を離すと、お母さんのベッドまで走る靴音が聞こえ、きつく抱きしめられていた。
「あのね、お姉ちゃんが僕にパンを買ってくれたんだ!」
フィオーレの姿を見たダリーのお母さんが、頭を下げようとしたとき、咳き込む声が聞こえフィオーレは慌てて駆け寄りダリーのお母さんの背中を優しくさすっていた。
「ゲホゲホ…すみません。私の息子がご迷惑を…」
首を横に振るフィオーレの隣で、ダリーが泣いてお母さんと名前を呼んでいた。
「この通り、私は病弱で家にお金も、食べるものもなく、この子にはひもじい思いを…」
「これも神様のお導きなので。どうかお気になさらず」
フィオーレが笑顔を見せると、ダリーのお母さんは声を押し殺すように口元を押さえ涙を流していた。
「そうだわ!ダリーお手伝い出来るかしら?」
「うん!僕、お手伝い出来るよ!」
「じゃあ、まずはお部屋を片付けましょ」
ダリーのお母さんが、フィオーレにそこまでご厄介になる訳にはと断っていたが、やると決めたフィオーレは服の袖を捲り上げて、掃除をしだした。一刻もすれば、部屋は片ずいて、ホコリや蜘蛛の巣は綺麗になっていた。
「後は、ご飯だけね!ダリー薪は何処かしら?」
後ろを振り向くと、疲れたのかダリーは椅子に座りながら寝息を立てて眠っていた。仕方ないと、火の魔法をフィオーレが唱えると、台所の小さな竈の中に入ってた薪に火をつけると、パチパチと薪が燃える音がした。
「温めたお白湯しかできなくて…」
フィオーレが、ダリーのお母さんに、木のカップにいれた白湯を持っていくと、ゆっくりと口にしていた。
「何から何まで、お世話になってばかりで…」
咳き込むダリーのお母さんの背中をさすりながら、椅子に腰を下ろして、フィオーレが息を静かに吐くと、歌を歌い出した。その歌はどこか懐かしく暖かな陽だまりのような歌に、ダリーのお母さんが目を閉じて聞いていた。
「あれ?お姉ちゃんの髪が金色だ…」
寝ぼけながら部屋に入ってきたダリーに、金色の髪ってなんだろうとフィオーレは首を傾げていた。
「咳が…胸も苦しくない…」
ダリーのお母さんが、自分の体を触って確かめていた。
「かーちゃん苦しくないの?」
「もう、苦しくないよ」
フィオーレの不思議な歌の力なのか、ダリーのお母さんの病を癒してしまった。少し疲れたのかフィオーレの顔色が暗くなるのを、ダリーが見て心配そうに声をかけた。
「お姉ちゃん大丈夫?」
「ええ、大丈夫よ。それより今は、お昼すぎかしら?」
「お嬢様、夕刻になりますよ」
ダリーのお母さんが部屋の小さな窓の外を見上げて答えると、フィオーレが慌てた様子で椅子から立ち上がり、鞄と着てきたロープを羽織ると、ダリーとお母さんにお邪魔しましたと、部屋を後にした。
「ハルウドおじ様に見つかったら…」
目の見えないフィオーレは来た道を、匂いや音で覚えていて足早にスラム街を出ようとしていた。
「この道を曲がれば、街中のはず…」
曲がり道を曲がろうとした時、フィオーレは誰かにぶつかり慌てて謝罪をした。
「急いでて、ごめんなさい!」
「あいてて…」
「兄貴大丈夫ですか?」
「あー腕が痛い!俺のか弱い腕が折れちまったかもな!」
ニヤニヤする二人の男の声に、フィオーレは後ろに下がろうとした。
「おっと、どこに行くのかな?」
フィオーレの腕を掴みあげて、男の力にギリっと骨が軋む音がした。
「兄貴、こいつの腕細くねーか?」
フィオーレのフードを捲り上げると、縛り忘れた長い髪がパサッと肩におりると、目を丸くする男たちがニヤッと笑う。
「兄貴これは、相当な上玉ですぜ!売れば金貨になるんじゃねーですか?」
「こんな綺麗な顔は、貴族か?それとも、どっかの凄いご令嬢とかかもな」
小汚い声でフィオーレを見てゲラゲラと笑う二人に、フィオーレが魔法を使おうとした。
「おっと。大人しくしてろよ」
フィオーレの口を塞がれてしまい、魔法が使えずにどうするかと考えていると、男たちがやけに騒がしい。
「このガキ何しやがる!」
「お姉ちゃんを離せ!」
ダリーが細身の男の足に噛み付くと、乱暴に振りほどいた勢いでダリーの体が石壁に叩きつけられ、ダリーの呻く声が聞こえフィオーレが慌てて、塞がれた男の手を思いきり噛むと、その痛みで手を離した隙に、ダリーの元へ手探りで地面を探って確かめた。
「ダリー!ダリー!大丈夫?」
「僕は…大丈夫だから…逃げてお姉ちゃん…」
ダリーが気を失ってしまい体を抱き抱えると、怒り任せに、大柄な男がフィオーレに拳を振り上げた。
「このガキ共ただじゃおかね!」
フィオーレがダリーを守るように庇い、目を閉じたが急に当たりが静かになっていた。目を開けると、知らない男の声がフィオーレの目の前で聞こえて顔を上げた。
「この馬鹿野郎!貴族の奴がここに来るなと言われてねーのか!」
キーンと声が路地に響くとフィオーレがぽかんと彼を見上げたまま、何が起きたか分からずにいた。通りすがの人に伸びて気絶した男たちを、衛兵に引き渡すようにと伝えていた。
「ほら、手!」
「手…?」
彼がフィオーレの手を掴むと立たせてくれて、服の土埃を払ってくれるとダリーが目を覚ました。お兄ちゃんなら大丈夫だからと、耳打ちをするとダリーは家に帰って行った。
「ほら、こっからはお前でも帰れるだろ」
「あの。助けてくれてありがとうございます」
「礼なら、ほら」
彼が謝礼を貰おうと、フィオーレの前で手を差し出したが、気付かないフィオーレに、ため息を漏らした。
「貴族のご令嬢かと思ったら、文無しかよ!」
「あ…謝礼なら私のお城なら――」
「あーはいはい。嘘はいいよ。じゃあなー」
「でしたら、お名前だけでも!」
「金のない奴に名を名乗るほど安くはねーよ」
ヒラヒラと手を振りながら、少年の靴音が遠ざかるとフィオーレの後ろから声が聞こえてきた。
「フィオーレ様!」
ハルウドと衛兵たちがバタバタと走って、フィオーレの姿を見てびっくりしていた。
「ハルウドおじ様」
「フィオーレ様、ご無事でよかった…」
ハルウドに抱きしめられたフィオーレは、安堵と疲れから気を失ってしまい、ハルウドが急ぎ馬車を誘導した。次の日、フィオーレが目を覚ますと国王は慌てた様子だったが、女王からはこっぴどく叱られ、暫く部屋で反省なさいと言われるのでした。
お転婆なお姫様、フィオーレ。気になることがあれば確かめなきゃ気が済まない、危なっかしいお姫様ってことを作者は書き忘れていたなと、小説にしてみました。フィオーレを助けてくれた、彼とは?次回のお話はルドに戻ります。お楽しみにお待ちくださいm(*_ _)m
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