変化と退化
俺は自覚があるほど性格が悪い。欲しいと思ったものはなんとしてでも手に入れる。俺より地位の高いやつがいればそいつを妬む。それが俺だ。
あいつがくるまで俺は天才と呼ばれていた。何事においても俺の右に出るものはいない。勉強の出来、友達の数、運動神経、スクールカースト、全部俺が一番。俺は近い将来最強になれる者、そう思っていた。
でも、そんな俺をぶっ壊した奴が現れた。そいつはただの転校生だった。
評判は一気に広まり、あいつへの称賛が俺の耳を襲った。俺の王座が徐々に傾いていく感覚。カリスマ性、総合的な賢さ、顔立ちの良さ。俺の上位互換だった。つまり俺はあいつの下位互換。
でも、俺は諦めなかった。負けが嫌いで、あいつを負かしたくて仕方がなかった。ふつふつと沸き立つ黒い感情に俺は身を任せた。
彼の粗探しをするようになってからは、あらゆることを駆使して、評判を下げようとした。友達の数は諦めた。仕方ない犠牲なのだ。
でも結局、高校であいつに勝つことはできなかった。俺は東大。彼はオックスフォード。受験という最後の勝負も負けた。
大学を卒業し、俺の会社はまぁまぁ成功。俺の知り合いでその社名を知らない者はいないほど。お偉いジジイが集まる晩餐会にも参加した。口を揃えて彼らは俺のへの称賛を送る。あいつのせいで、上には上がいるせいで俺にとってそれは全て詭弁だったが。
ある時、高校の頃のグループメールから同窓会の通知が入った。あの時から変わってしまった俺に理解を示してくれた友人も参加することだったので、俺も行くことにした。
会場は多種多様な年代の人がいた。ジジイも、若い女も、色々と。俺と友達はホールの隅っこで、今までの出来事を笑い混じりに語らいあっていた。
しばらく経った時、周りの奴らがある一点に集まっていることに気がついた。誰かを取り巻くような人だかりができていた。
「ごめん、ちょっと見てくる」
友達に一言おいてその集まりを見にいくと、俺はとんでもないものを目にすることになった。興味本位で向かった足を切り落としたくなるほどの後悔が、俺に降りかかることになった。
「あい、つ……!」
あの時の転校生。俺を変えた元凶。俺に惨めさを味わわせた張本人がいた。忌々しい、苦しい、気色悪い。あいつと同じ部屋にいることに対する嫌悪感が吐き気となってしまう。
至る所で聞いて、その度に苛ついていたが、あいつは世界一のお坊ちゃまになっていた。俺よりも何倍も偉い、そんな人になっていた。
過去の思い出がフラッシュバックしているその時だった。俺のことを知っている一人の女が声を上げた。皆に嫌でも聞こえる大きい声を。
「もしかして、〇〇会社の谷川社長ですか!?」
視線が俺に向いた。今まで生きてきて、初めて俺の知名度を恨んだ瞬間かもしれない。
周囲が一瞬の静寂の後、さらにざわつき始めた。
次々に俺の名を口にする。そして、俺を見てあざ笑っている。あの頃みたいに、俺を笑いものにしている。これは悪夢じゃないはずなのに、どこかそんな気がしてならなかった。
あいつが、俺に近寄ってくる。
「君が、谷川さん?」
そうだこの顔だ。俺が日々嫌って、一生好きになることのないこの顔。
「はい、そうです。株式会社〇〇、社長の谷川です」
「へぇー! そうかそうか君があの谷川さんだね! 噂は予々聞いているよ。すごく頑張っているみたいだね!」
「いえいえ、あなたに比べれば全然ですよ」
「ふーん」
俺のことを獲物を狙う蛇のように見た後、ニヤリとした笑みを浮かべて言った。
「君、僕のこと嫌いでしょ?」
心臓が跳ねたのはきっと周りの奴らだけ。言葉を失ったのも、周りの奴らだけ。
「高校での君の悪口に、僕傷ついちゃったんだよなぁ〜」
まるで俺を煽るような声色。俺の方が立場が低く、なにも言い返さないのをいいことに、自分の権力を見せつけていた。
でも、こんなやつに羨望の眼差しを向ける意味はもうないのかもしれない。
「えぇ、大っ嫌いでしたよ」
まだ先かもしれないけど、本当の最強はどうせ俺になるからよ。