神々への道
虚空は果てしなく広がっていた。音も息も、生命も存在しない、冷酷な深淵。
コルは漂っていた。無重力でありながら、見えない鎖に縛られていた。影が彼を取り囲み、囁きが彼の心を紡いでいた。
そして――足音が。
ゆっくりと、ゆっくりとした足音が、一歩一歩、虚空に響き渡った。
コルは振り返り、黒い目を細めた。
暗闇から、人影が現れた。移ろいゆく影に覆われ、純粋な悪意のオーラをまとっていた。
悪魔だ。
彼はそこに立ち、コルを読めない視線で見つめていた。その姿は、消えゆく残り火のように揺らめいていた。
「お前か」悪魔は、かすれた声で楽しそうに呟いた。
コルは答えなかった。
悪魔の唇に笑みが浮かんだ。「よかった。」
深淵が震えた。囁きはますます大きくなった。
「コル・ヴァエルロス、お前の旅はまだ終わっていない。」
コルは両手を握りしめた。「まさか、そんなとは思わなかった。」
深く、ゴロゴロと笑った。「ならば、もう理解したな。お前が戦った戦争は序章に過ぎなかった。本当の戦いはまだ始まったばかりだ。」
コルは黙っていた。
悪魔の視線が彼を焼き付けた。「魔女たちを探さなければならない。彼女たちがお前を導いてくれるだろう。」
コルは眉をひそめた。「彼女たちは何を知っているというんだ?」
悪魔は首を傾げた。「全てだ。」
影がうねり、世界がぼやけた。深淵は砕け散った。
そしてコルは目を覚ました。
コルは窓から差し込む黄金色の夜明けの光に目を開けた。海の香りが空気中に漂い、遠くで波の音が響いていた。
彼はゆっくりと息を吐いた。
悪魔の言葉は長く続いた。
魔女たちを見つけなければ。
だが、まだだ。
彼は体を起こし、部屋を出た。他の者たちはすでに外に集まっており、その声が朝の空気に響いていた。
彼が近づくと、エリザベスは振り返り、明るい笑みを浮かべた。「やっと目が覚めたの?寝ている間に死んだんじゃないかと思ってたわ。」
コルは眉を上げた。「そうなら、わかるわよ。」
オリンはニヤリと笑った。「そうね。」
リサはコルの隣に歩み寄り、首を傾げた。「大丈夫?」
彼はコルの視線を交わした。「ええ。」
リサはしばらく彼を見つめたが、押し付けようとはしなかった。
エリザベスは手を叩いた。「よし、もう立ち止まるのは終わり。休憩が必要よ。本当の休憩を。」
デインは腕を組んだ。「何か考えているの?」
エリザベスはニヤリと笑った。「ビーチよ。」
オリンは瞬きをした。「ビーチ?」
ジェイコブは鼻で笑った。「冗談だろ。」
エリザベスは肩をすくめた。「何世紀も争ってきたんだから。いつかは普通に振る舞える日が来るはずだ。」
ヴァレンはニヤリと笑った。「彼女の言う通りだ。」
リサは微笑んだ。「いい考えだと思う。」
コルは息を吐いた。「どうぞ。そこで会おう。」
リサは眉をひそめた。「どうして?」
コルは背を向けた。「まずやらなきゃいけないことがある。」
彼女が問いただす前に、彼は既にいなくなっていた。
魔女たちの隠された神殿は影に包まれ、空気は力に満ちていた。
コルは彼らの前に立ち、表情は読み取れなかった。
先頭の魔女が前に出た。「来たのね。」
コルの視線が暗くなった。「答えが欲しい。」
魔女は頷いた。「あなたは神の領域への道を探しているのね。」
コルは腕を組んだ。「教えてくれ」
彼女は一歩近づいた。「ユニオン山へ旅立つ。頂上に門がある」
コルは目を細めた。「旅?」
魔女は首を横に振った。「テレポートできるのは麓までだけだ。登頂は徒歩でなければならない」
コルは眉をひそめた。「なぜだ?」
「神々は近道を許さない」
沈黙。
そして――魔女の視線が鋭くなった。
「警告しておくが、コル・ヴァエルロス」
彼は緊張した。
「神界の時間の流れは、君のそれとは違う。君にとっては日々が過ぎ去るかもしれないが、どこか別の場所では何年も過ぎ去るかもしれない。神々は君を試すだろう。もし君が失敗したら…」
空気が重くなった。
コルは顎を噛み締めた。
「そして神々自身も?」と彼は尋ねた。「何を期待すればいいんだ?」
魔女の唇は、意味ありげな笑みを浮かべた。
「答えは…すぐに明らかになるだろう。」
コルはしばらくの間、リサを見つめていた。そして、何も言わずに振り返り、姿を消した。
コルが到着すると、他の者たちも既にそこにいた。
太陽は高く昇り、波は砕けたガラスのようにきらめいていた。オリンとヴァレンが力比べで言い争い、エリザベスは木陰でくつろぎ、ジェイコブとブラッドは砂浜でトレーニングをしていた。辺りは笑い声で満たされていた。
リサは水辺に座り、海を眺めていた。
コルが近づいてきた。
彼女は微笑みながら顔を上げた。「よくやったわね。」
コルはリサの隣に座り、頷いた。
しばらくの間、二人は何も言わなかった。ただ波の音と、遠くから聞こえる友人たちの声に耳を傾けていた。
その時、リサが口を開いた。
「…あなたは違うわね。」
コルはリサを見なかった。「わかってるわ。」
リサはためらった。「どうしたの?」
コルの指が砂に食い込んだ。彼女にすべてを話すことができた。悪魔のこと、戦いのこと、そして自分がどうなったのか。
しかし、そうする代わりに――
「勝ったのよ。」
リサは彼を注意深く見つめた。「それで、あなたは何を犠牲にしたの?」
コルは息を吐き出した。「すべてよ。」
リサはひるまなかった。目をそらすこともなかった。
代わりに、彼女は手を伸ばし、優しく彼の手を握った。
「あなたは相変わらずあなたね。」と彼女は呟いた。
コルは彼女の視線を受け止めた。
日が沈み始めると、空気が変わった。
魔女たちが一瞬のうちに現れた。黒いローブが風に波打っていた。
皆が緊張した。
魔女の長の視線がコルに向けられた。
「時間よ。」
コルは立ち上がった。
他の者たちもそれに続いた。
魔女は一同の方を向いた。「全員帰るわけにはいかないわ。」
沈黙。
「神界は人間が住む場所ではない。コルだけが生き残れる。リサはまあ。でも、あなたたちの残りは…」彼女は首を横に振った。「門に辿り着く前に死んでしまうでしょう。」
リサの胸が締め付けられた。「じゃあ、私も彼と一緒に行くわ。」
コルの表情が曇った。
「だめ。」
リサの目は大きく見開かれた。「コル…」
彼は彼女の方を向いた。「君はここに残るんだ。」
リサは拳を握りしめた。「大丈夫。」
コルの声は毅然としていた。「危険は冒さない。」
リサの唇は開いたが、彼の目にその思いが込められていた。
彼の考えを変えることはできなかった。
魔女は再び口を開いた。「夜明けに出発しなさい。全速力で進んでも、旅は数日かかるでしょう。」今まで見た中で一番高い山だ。」
コルは頷いた。
ためらいも、恐怖もなかった。
リサは視線を落とした。「…わかった。」
コルは手を伸ばし、彼女の指に自分の指を軽く触れた。「また戻ってくる。」
リサは大きく息を呑んだ。「…した方がいいわ。」
朝が来るのが早すぎた。
コルはポータルの端に立っていた。風が吹き荒れていた。
オリン、ヴァレン、エリザベス、ジェイコブ、そしてリサが彼の後ろに立っていた。
二人は言葉を交わさなかった。
そして――コルはポータルをくぐり抜けた。
彼がポータルから出ると、そびえ立つ山の麓に立っていた。
ユニオン山。
頂上は雲の向こうに隠れていた。目の前には果てしない道が続いていた。
コルは深呼吸をした。
そして、振り返ることなく
登り始めた。