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46.

「俺ちゃんもこの世界に来てからは、娼館の暖炉の中でじっとして誰かに召喚されるのを待ってたってわけさ、娼館から召喚待ちってな」

 ゲラゲラ笑うのは火の精霊だけだ。


「何故いきなり笑い出したのでしょう?」

「今のは同じ読み方の娼館と召喚をかけた言葉遊びですわね」

「年寄りが好む寒いギャグですよ」

「なるほど」


 首を傾げるフリーダに、サンドラとスウェンが解説する。一人で喋っているようにしか見えないノリツッコミよりかは知性の感じられるオヤジギャグに、フリーダは素直に感心して拍手を贈る。笑顔はない。

 サンドラとスウェンも倣って拍手をする。笑顔はない。


「や、やりづれ~~」

 火の精霊の精神力はかなり削られた。


 しかし、伊達に長くこの世に居座っている精霊ではない。この程度の精神攻撃など屁でもない。

 実体がないまま次元の違う世界に存在し続けるということは、常に過酷な環境に身を置いているということだ。つまり、この世に長く存在しているというだけで、精霊や悪魔というものはレベルが上がるのである。

 ただ、実体がないためHPやMPを溜め込めない。だから、この世に実体を持つものと繋がる必要があるのだ。


「しかし、どうして娼館の暖炉に? そんなところに精霊を呼び出す魔術師などいないだろうに」

 今度はスウェンが首を傾げる。

 彼も娼館には入ったことはない。女遊びをする金も暇もないが、イカガワシイ通りに入ったことくらいはある。サンドラは勿論のこと、フリーダもそういうところへは行ったことすらなかった。


 娼館は当然のこと、魔術の研鑽を積むところではないけれど、悪魔召喚の儀式ならあり得る。人には言えないようなことを行うには打って付けの場所だから、娼館や賭博場が悪魔信仰の集会場になっていたというのはままある話だ。

 しかし、火の精霊を召喚する儀式を、そんな悪所で行う輩はいないだろう。サンドラも金の力で出来たけれど、必要な物も様々だし、広い場所も必要だし、魔物の血や内臓をぶちまけなければいけないのだ。

 もしも、娼館などで精霊召喚を行うような者がいたというなら、国家転覆すら視野に入れた巨悪が動いている可能性がある。ちんけな悪魔信仰集会とはわけが違う。


 そんなことを真剣に考えていたスウェンを眺めて、火の精霊は鼻をほじっていた。短い手は鼻に届かないので、蝙蝠のような羽の先で鼻をほじっている。


「そりゃ、俺ちゃんは綺麗なオネエチャンと遊ぶためにこの世界に来たんだもん、ボンキュッボンの美人さん追いかけてるうちに動けなくなったのよ」

 精霊の返答を聞いてスウェンは己の考え過ぎを後悔し、八つ当たりに精霊を杖で殴っておいた。もう火の精霊も杖で殴られることに慣れてしまい、大した反応がないことも腹立たしい。


「つまり、あなたは私と契約をしなければ外にも出られないということね」

 サンドラは気を取り直して話を元に戻した。


 悪魔や精霊はこの世界の生き物を頼らなければ行動できないこと、この火の精霊が真の阿呆で、スケベと寒いギャグをこよなく愛していることはわかった。


「そういうこと~、ま、ここの暖炉でまた召喚待ちしても良いけどよ、陰気臭いがメイドのネエチャンたちは結構美人が多いみたいだし」

「元の世界に帰るのはどうかしら?」

「やだぴょ~ん」


 ただこの場に留まって周囲を不快にするだけというのは、精霊というより悪魔に近いのではないか。サンドラは呆れてしまったが、この変なオッサンの精霊がいる限り他の精霊も呼び出せないという。


「はい、そこらのネズミに憑りつかせて森に放つというのはどうでしょう」

 スウェンが手を上げて発言する。


「良い案だわ」

「良い案じゃねーわ、そんなことしたらネズミども統率してこの屋敷に大量のネズミ送り込んでやるからな」


 それだ、という顔をしたサンドラとフリーダに、火の精霊は必至の反論をする。ネズミに憑りついてもネズミたちを統率できるのかは精霊も知らないけれど、ネズミになって野たれ死ぬのは絶対に嫌だった。

 サンドラたちも屋敷がネズミだらけになるのは嫌だ。そんじょそこらの悪魔などは侵入できないけれど、精霊に操られただけのネズミは、結界が通用するかわからない。


「はい、死刑囚に憑りつかせて諸共に斬首するというのはどうでしょう」

 フリーダが手を上げて発言する。


「良い案だわ」

「良い案じゃねーわ、恐いわ、人の心ってもんがないのかこの外道!! 悪魔!!」


 それだ、という顔をしたサンドラとスウェンに、火の精霊は死に物狂いで反論した。

 実際、死刑囚に憑りつかせて纏めて抹殺するというのは、悪魔祓いの手法として書物などにも紹介されている。

 しかし、悪魔祓いの手法なのである。スケベのために生きている火の精霊だとて、精霊としての矜持はあるので、悪魔と同じ方法で祓われるのはプライドが許さない。あと斬首とか普通に恐い。


「さっきからいやだいやだと我が儘ばかり、じゃあどんな祓い方なら良いのです?」

「まず祓うな!! 俺ちゃん火の精霊なんだよ、役に立つんだって、マジで、祓わないでくださいお願いします!!」


 火の精霊はとうとうプライドもなく頭を下げた。頭が大きくてよくわからないが、たぶん土下座をしているつもりのようだ。この世界でも、必死に頼み込む時は頭を地面に擦りつけるというのは通じるのだろうか。


 まだ本人は気が付いていないけれど、サンドラには本当に精霊を消滅させるだけの力がある。ここに来た時にチラッと見ただけだが、あの勇者とかいう小僧にも同じだけの力がある。下手を打つと本気で消されるのだ。

 それに、この世界に自力で侵入した時に大分無理をしたため、元の世界に送還されてしまうと次はいつこちらの世界に来られるかわからない。


 消されるのは嫌だ。しかし、娯楽らしい娯楽のない元の世界に帰るのも嫌だ。火の精霊は考えた。この場に留まって契約をもぎ取る起死回生の一手を。

 そこで目に入ったのが、未だに皿の上に残っている砂糖の塊のような菓子だった。


 あれだ!! と閃いた。本当に身体がぴかーんと光った。

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