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サンドラ・フェルセンは悪役ではない  作者: 稲垣コウ
友情!努力!勝利!
33/63

33.

 客人の着席を見届けて、マルティンとサンドラも向かい側に着席した。


 二人の椅子の背もたれには、座る人間の頭よりも上に人の頭部のようなものが彫刻されている。実物大の人間の頭がたくさんだ。

 海の向こうには、敵将の首をとってくることが武功の証になる国があるそうだが、さながらマルティンとサンドラは多くの敵を討取った武将の如き風格だ。


 アリシアとラーシュは何故か二人以上の顔と対面している状態だ。

 しかも、どれも悲鳴を上げているように目も口も大きな空洞になっていて、ただの空洞だと思いたいが、薄暗い室内で大きく見開かれた眼孔の中は底無しの闇である。見つめていたら闇の中に取り込まれそうな気がして、アリシアもラーシュも必死に視線を彷徨わせる。


 客人が紙のように血の気の引いた顔色をしているけれど、とりあえず、双方着席してようやく茶会の恰好は整った。


 フリーダとスウェンが粛々とテーブルにティーセットを並べる。

 二人も魔族の一員みたいな姿だから、グラスに注がれた鮮血とカエルの丸焼きでも出てきそうだが、カップもポットも普通だし、中身も普通のお茶のようだ。ドギツい香の匂いでよくわからないけれど、たぶん高級な茶葉が使われているだろう。


 それだけでアリシアとラーシュはホッとする。後ろに控えていた二人が家付きの魔術師ではなく、ただの使用人だったことにはギョッとしたけれど、ここに来てようやく触れる普通の物だ。ただの紅茶にこんなに安堵したことはない。


「こちら我が家の自慢の菓子です、父が是非にと」

 使用人が動いたタイミングで、ラーシュはサッと持参した包みをあげる。さっさと用件を済ませてこの場から逃げ出したい一心で、未だかつてなく真剣な面持ちと完璧な所作で力強く菓子折りを差し出した。


「私も、ノルディーン領特産の果物です、先日のお詫びに」

 アリシアも気を取り直して笑顔を作る。聖女として伯爵令嬢として、これしきの肝試しに負けてなるものかという気迫を滲ませる。

 フェルセン家としては肝試しのつもりは一切ないのだが、負けてなるものかと掲げられた木箱には、つやつやと宝石のように輝く果実が並べられていた。


 二人の今日の訪問理由はこれだった。

 アリシアもラーシュも先日の失態の後、すぐさま実家に謝罪と言い訳の手紙を送った。勇者パーティーが王家のお墨付きを得て自由に行動できると言っても、他所の貴族家への非礼は、実家にどんな火の粉が飛ぶかわかったものじゃないからだ。

 そして、高度な魔法を駆使して速達で送った手紙には、翌日には同じく速達で返事が届いた。


 詫びてこい、と。


 実家からも出来る限りのフォローはするが、まずは既に領地へお邪魔しているおまえたちが即刻詫びを入れて来いと、菓子折りや高級フルーツ詰め合わせが送られてきたのだ。


 勇者パーティーは今までも各地で無茶をしてきたため、ノルディーン伯爵家もクランツ子爵家も我が子の尻拭いは最早お手の物である。それでも、いくら実家がフォローしようと本人たちのイメージが悪くなると、動き辛くなるのは当の本人たちだ。

 だからこそ、まずは自分たちで詫びに行けというのは親心だった。貴族社会では詫びの一つも政治的な駆け引きを考えるべきことだが、そんなことは実家がどうにでもするから、おまえたちは勇者パーティーのイメージ改善を第一にせよということだ。


 二人の実家にとっては幸いなことに、フェルセン伯爵は良識的で公正な人柄で有名だ。装飾品のセンスが悪いという評判もあるけれど、誠心誠意謝罪すれば大事にはならないだろうと予想していた。


 まさか、ノルディーン伯爵家もクランツ子爵家も、我が子を魔界の如き暗黒城へと送り出してしまったとは、思いもしないのであった。


 魔王と対峙するに等しい意気込みを持って差し出された詫びの品だが、対する魔族のようなフェルセン家の面々は、のほほんとしたものだ。


「おや、これはこれは、かたじけないことだ」

 手土産効果は絶大だった。マルティンは根が善良な紳士だから、丁寧に謝罪されれば根に持つことはない。無礼者は迷わず呪い殺しそうなのは服装だけである。


「ありがとう存じますわ、果物から、お二人にもお出ししてちょうだい」

 サンドラも女主人代理として使用人たちに指図する。堂々とした振る舞いに満足気なのは本人とマルティンだけで、サンドラは堂々とすればするほど真の黒幕らしくなる。


 ただ、見た目に反してサンドラには裏などないため、ただただ純粋に貴族らしい社交を考えていた。

 二人の家格からしても、日持ちを考えても、まずはアリシアの果物を先に食べるべきだろう。一応、フェルセン家の厨房でも茶菓子を用意していたが、客人の手土産があるならそちらが優先だ。


 フリーダとスウェンが恭しく手土産を受け取り、そのまま厨房にでも持って行って皿に盛りつけてくるだろう。と思われたが、手土産は一旦サンドラの前に差し出された。

 気合でこの場にも慣れてきたアリシアとラーシュだったが、再び不可解な顔をせずにはいられなかった。貴族として思ったことが表情に出るのはよろしくないけれど、二人の親だってこの状況を見れば仕方がないと思うだろう。


 そんな客人など気にもせず、サンドラは差し出された手土産を覗き込み、懐から出した謎の道具を振り謎の言葉を唱え始めた。

 道具は子供の玩具のようにも見える。棒に鈴がいくつも括りつけられていて、一振りだけでガッシャンガッシャンと騒々しい音を鳴らす。絶対に子供の玩具ではないと思えるのは、鈴だけでなく獣の牙か角のような物も括りつけられているからだ。

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