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25.

「この村に魔族なんていない、さっきから何をおかしなことを言っているんだ」

 マルティンは善良な顔で訴えた。胸元の獣の髑髏も心なしか善良そうな顔をしているように見える。


「僕の目は誤魔化せないぞ! というか誰の目も誤魔化せないぞ! 本当にそれで人に化けているつもりか!?」

 テオドールは叫んだ。


 確かに、と騎士たちは頷いてしまった。


 誰もが思っていたけれど誰も口にできずにいたことを、とうとう勇者が言ってしまった。フレデリクは流石は勇者とアッパレせずにはいられなかった。勿論心の中でだけだ。

 だが、フレデリクはフェルセン家の家騎士だ。相手が真っ当なことを言っていようとも、主家への狼藉は止めなければならない。


「何か誤解があるようだ、このお方は間違いなくフェルセン伯爵様だ」

「そうよ、間違いないわ、私もフェルセン伯爵にはお会いしたことがあるもの」

 援護するように声を上げたのは、森から出てきた少女だ。勇者の仲間というならば、彼女は聖女アリシアだろう。本名はアリシア・ノルディーン、ノルディーン伯爵令嬢である。


 ロベルトは聖女と面識はなかったけれど、式典の場で遠目に見たことはあった。マルティンはノルディーン伯爵と共に令嬢として、パーティーで挨拶された覚えはあった。


「そうだ、まずは事情を聴くべきだ」

 冷静に勇者を説得しようとするのは、槍を背負った青年ラーシュだ。彼も貴族だが子爵家の三男だから、この場ではあまり強く出られない。


 しかし、仲間たちに訴えられてもテオドールの考えは変わらなかった。


「伯爵がそんなおかしな格好をするものか!」


 それはそう、とアリシアだけでなく騎士団も思わずにいられなかった。


 しかし、アリシアはフェルセン伯爵家のおかしな噂は聞いたことがあった。

 娘が魔術の研究に傾倒していて、フェルセン伯爵はいつも不気味な魔術道具を身に付けさせられているのだ、と。

 実際、フェルセン伯爵を王都で見かけた時は、必ず趣味の悪い装飾品を身に着けていた。フェルセン伯爵令嬢は表にまったく出てこないので、存在するのかも怪しまれていたから、アリシアもただ悪趣味なだけの人だと思っていた。


「く、口を慎みなさいテオドール」

 まさか伯爵とその家族が、領地でここまで変てこな格好をしているとは思わなかったけれど、服装がおかしいだけで糾弾していい相手ではないのだ。


 なにせ、アリシアの実家ノルディーン伯爵家は、家格はフェルセン伯爵家と同等だ。アリシアが聖女に選ばれたことで多少の融通は利くとしても、フェルセン伯爵家の方がノルディーン伯爵家よりも古い家系だから、貴族としての箔はフェルセン伯爵家の方が若干上だ。


 勇者パーティーの中のもう一人の貴族ラーシュの実家クランツ子爵家は、田舎の木端貴族である。フェルセン伯爵家には太刀打ちできない。いつも煩いほど饒舌なラーシュも、今は借りてきた猫のように大人しくしている。


 つまりは、フェルセン家に無礼を働けば勇者一行だとてタダでは済まない。

 テオドールと、この場にはいないが僧侶のイニゴと冒険者のアンスガルは気にも留めないだろうが、アリシアとラーシュにとっては只事ではない。

 例えここで自分たちは不問になったとしても、フェルセン家とノルディーン家の間に軋轢が生まれるのはよろしくないし、クランツ家にいたっては潰される可能性だってある。


 フェルセン伯爵は温厚な性格だと聞いているけれど、一方で、娘のためなら悪い噂が立とうとも趣味の悪いアクセサリーを身に着ける男だ。御令嬢に危害を加えられたとすれば、何をするかわかったもんじゃない。

 社会的地位なんて気にしない勇者だって、いくら今は王家が後ろ盾についていると言っても、あちこちで貴族に喧嘩を売っていればお叱りを受ける可能性もある。


 しかし、テオドールは勇者らしく正義感に溢れていて、意志が強く、世間体などに流される性質ではなかった。つまり頑固で空気が読めない性格だった。


「格好がおかしいし、この女の魔術は見たことがない、それに格好がおかしい、魔族に違いない!!」

 かなり偏っている部分もあるけれど、テオドールの理論は一般人に広く理解される意見だ。フェルセン家のみなさんが外見だけは立派な魔族なのは間違いない。


 ただ、本人たちにはその自覚はまったくないのだ。


「おかしな格好とは何だ!! これはサンドラが私のために用意してくれた魔除けのネックレスだぞ!!」

「私もサンドラが用意してくれた魔除けのマントだ!! 妹を侮辱するのは許さないぞ!!」

「僕はあんたたちのセンスを疑っているんだ!」


 憤慨するマルティンとロベルトに、テオドールも負けじと言い返す。貴族相手だろうと遠慮する気はないが、どうにも言い合いが子供じみてきた。


「いい加減にしなさいテオドール! 本当のことでも言っていいことと悪いことがあるわ!」

「アリシアも発言に気を付けろ!?」

 これ以上の衝突は避けたいアリシアだが、彼女の長所は正直なところだった。それは同時に短所だった。ラーシュが胃の痛そうな顔で彼女を諫めるけれど、手遅れの感は否めない。

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