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24.

「村の人たちを攫っていたのはおまえたちだろう!! 領主の騎士団まで騙して、この村で何をする気だ!!」


 すっかり、サンドラとその助手二人を魔族だと思い込んでいるらしい暴漢は、サンドラを抱き寄せる。

 正確に言えば、犯人を逃がすまいと拘束を強めただけだが、相手が御令嬢だとわかっている者たちから見ると、なんとも不埒な行いだ。


「勘違い甚だしい!! お嬢様から手を放せ!!」

「その方はフェルセン伯爵家の御令嬢、サンドラ・フェルセン様であるぞ!!」


 フリーダとスウェンは相変わらず、何言ってんだコイツという態度だが、魔族云々は別として、自分たちが誘拐犯と勘違いされていることは理解した。こんな田舎では、魔術を使っているだけでも珍しく思われるだろう。

 それにしても、高圧的な態度をとると尚更に魔族らしく見えるぞ、という騎士たちの心配には気付かない。


「え? お嬢様……?」

 暴漢は別のことに驚いていた。己が押さえつけている相手をマジマジ見る。どれだけ見ても年齢はよくわからない。


 なにせ全身黒ずくめで、黒いベールと長い前髪に隠れて顔も見えない。ドレスを着ているから女だとは思うが、それもあまりに厚着をしているから確証は持てない。白髪だと思った髪がツヤツヤの銀髪だったから、そこだけは若く見えなくもない。


 暴漢の態度はなかなかに暢気だったが、離れて見守っていた使用人たちは動けずにいた。暢気に見えるだけで隙が無い。少しでも動けばサンドラに刃が届いてしまいそうだ。暴漢を囲む騎士たちもじりじりと焦るばかりだ。


「…………は、は、は、離して」

 当のサンドラは、暴漢の腕の中で震え上がっていた。ゼヒゼヒと息も荒く、本当に衰弱した老婆になってしまったようだ。


 如何せん、引き籠りが長いので、異性との接触など父と兄と、せいぜいがスウェンくらいしか経験がない。それも手を触れる程度だ。知らない男にこんなにガッチリと押さえつけられるなんて、恥じらうとかトキメクとかそんな余裕はなく、恐怖と緊張で今にも息が止まりそうだ。

 あと、運動不足で身体が貧弱なので、男性に少し強く掴まれただけでも骨が折れてしまいそうだし、痛みだけで気が遠くなる。やはり悪魔と戦うには筋肉が必要だ。悪魔と戦わなくても、普通に生きるために筋トレをしようと切に思い知る。


「魔女って婆さんじゃないんだ……」

 暴漢の方はどうでもいいことに何故か感心していた。最初の絶叫を聞いても年齢なんてよくわからなかったけれど、今のか細い囁き声を聞く限りは、歳若い少女であることは確からしい。


 だが、少女だろうと魔族ではないとは言い切れないし、魔族でなくても村人誘拐犯である可能性はある。

 なにせ、とにかくこの少女たちは格好が怪しいし、よくわからない儀式も怪しさしかなかった。


「妹に何をしている!!」

 そこへ駈け込んで来たのはロベルトだった。サンドラの悲鳴を聞いて走ってきたのだ。遅れてマルティンもやってくる。


 兄として、父として、当然の行動ではあったが、彼らの恰好でこの場に駆け付けられると面倒臭いことになる予感しかない。暴漢を取り囲んでいる騎士たちは、心強い助っ人を追い返したい気持ちになった。


「まだいたか!! 魔族ども!!」

 そら見たことか!! という騎士たちの心の叫び通り、暴漢はロベルトとマルティンのことも魔族と判定した。サンドラを離すどころか警戒を強める。


「魔族?」

「何を言っているんだ?」


 対するロベルトとマルティンは、何を言われているのかさっぱりわからない顔をしている。サンドラの危機を一瞬忘れてお互い顔を見合わせたが、どちらも魔除けを付けているのはいつものことなので、魔族云々と言われる意味がわからなかった。


 あなた方が魔族に間違えられています、と、共に来た騎士団の面々は全員即座に理解したが、誰も口にできない。ただ、暴漢の勘違いも理解できてしまうから、暴言を咎めることもできない。


「テオ!! 何をやっているんだ!」

「その方を離しなさいテオドール!!」

 そこへ、森の方から暴漢の仲間と思しき者たちが慌てた様子で走ってきた。冒険者風の身軽な格好をした少女と、長槍を背負った青年だ。


「ん? テオドール……?」

 マルティンはその名前に聞き覚えがあった。ロベルトもサンドラも聞き覚えがある。

 それどころか、フリーダもスウェンも騎士たちも聞き覚えがある。たぶん、おそらく、今この国で最も有名な名前かもしれない。


「まさか、勇者様?!」


 ロベルトの驚愕の声に応えるように暴漢、もとい勇者テオドールはマントのフードを取った。

 そこには漫画で見た通りの青年がいた。茶色い髪に金色の瞳、一見純朴そうな青年だが、瞳には燃えるような力強さがある。


 サンドラは血の気が引いた。


 この男はいずれサンドラを殺すかもしれないのだ。


 そんなサンドラの内心など誰も知らない。

 マルティンは暴漢の正体がわかっても、尚のこと不可解な顔をする。勇者テオドールとは面識はないが、噂を聞く限りは正義感溢れる好青年であるはずだ。


「どうして勇者がこんなことを?」

「とにかく妹を離せ、その子が何をしたというんだ」

 ロベルトは妹の身を案じるけれど、残念ながら彼は文官、武術は嗜み程度にしか習っていないから、格好が恐ろし気なだけで戦闘力は一般人の域を出ない。


「黙れ魔族ども! この村の人が助けを求めてきたんだ、魔族が村人を攫っている、村で妖しい魔術を使おうとしているって」

 テオドールは一切手を緩めないけれど、しかし彼は間違いなく正義漢だった。魔族相手だと思っていても説明はしてくれる。初対面でも彼が嘘はついていないことは信用できた。


 だが、ここはフェルセン伯爵領、サンドラの故郷である。領主一家は何ら後ろめたいこともなく、自分たちの服装にも一切の懸念を持っていなかった。

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