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19.

 普段ならば、複数人で魔物を狩る場合、魔物素材を売った儲けの取り分は狩りへの貢献度で決まるから、誰がどんな動きをしていたかみんなが確認し合うものだ。

 そのために、森の中で魔物を見つけても即座に交戦したりしない。魔物はただの獣よりも儲けが多いから、独り占めすると村の中での印象が悪くなるし、そもそも大型の魔物なんて村人一人では相手にできない。だから、見つけ次第一旦村へ戻って、討伐隊を組織して、計画を立てて改めて狩りに行く。


 しかし、今回は狩りではなく行方不明事件の調査及び捜索であったため、もしその過程で魔物を捕まえたとしても、事件の証拠品として領主へ提出することになっていた。

 しかも、既に村人を数人食っているかもしれない狂暴な魔物だし、村に戻る隙も無く交戦してしまった。突発的で事故のような狩りだったから、誰がどう動いたか誰も把握できなかったらしい。


 更には、魔物が出没したのが夕暮れだったことや、ここらでも滅多に見ないほどの大物だったせいで、暗くなり始めた森の中で余計に混乱したようだ。狩りで死人が出なかったのが不幸中の幸いである。


「それにしても、あまりにまとまりがない」

 マルティンが溜息を吐く。村人たちの話しをまとめても、森の中で突然大きな物音がして、みんなが混乱して走り回っているうちに、気が付いたらこの大きな魔物が転がっていたということになってしまう。


 ここまで来ればマルティンも違和感を覚える。


 この周辺で出没する魔物と言えば、せいぜいが中型のグリーンウルフだ。ホーンベアが人里近くに出てくるのだって年に一度あるかないかだ。そんな場所で今までに見たこともない大型の魔物が出没して狩られたなんて、大捕り物である。

 だのにこれだけ話がまとまらない。混乱していたとか、視界が悪かったとか、いくら事情があったって、こんなにも誰も状況を把握しないなんてことがあるだろうか。


「このままでは埒が明きません、現場にいたものから一人ずつ話を聞きましょう」

 ロベルトも懐疑的な表情で、顔は見えないが声の調子からしておそらく懐疑的に、父に提案する。村人たちの話しを疑っているわけではないが、この魔物が捕まったから行方不明事件が無事解決というのが何やら信じられない。


 まるで用意された筋書きのようではないか。領主が来る前日に、都合良く行方不明事件の原因と思しき魔物が捕まるなんて、自分が犯人ですよと魔物が自首してきたようだ。


「サンドラも何かがおかしいと思っているようです」

 ロベルトは妹の分も訴えた。


 当のサンドラは、ブツブツと何をか呟きながら村人の周辺を歩き回っていた。お嬢様付きのメイドと、大荷物を持った使用人と、オロオロした護衛の騎士たちも付いている。


 サンドラは間違いなくこれは悪魔の策略であると考えていた。捜査の手が自らへ向かう前に魔物を犯人とすることで、行方不明事件を解決したことにしようとしているのだ。

 前世でも、ドンパチの後に下っ端構成員を自首させて手打ちにするというのは、ヤクザのよくやる手であった、と思う。任侠映画で聞きかじっただけの知識だったが、まさか同じ手法を悪魔がとるとは思わなかった。


「任侠ものは盲点ですわ……悪魔はヤクザだなんて……漫画とアニメが専門のオタクでしたのに……」

 サンドラの呟きは誰も理解できない。屋敷に勤める使用人たちはお嬢様の奇行には慣れっこなので、ニンキョウだのアニメだのも、きっと悪魔に関わる何らかの呪文だろうと思い聞き流していた。


 サンドラの前世は少年漫画や少女漫画やアニメを愛するオタクだった。ワクワクする冒険やドキドキする恋愛を楽しんでいたので、ヤクザが主役のような作品は専門外だ。せいぜいがデスゲームやサイコホラーなど、青年漫画を読んでいたくらいだ。


 だがしかし、今更前世に戻って任侠映画を履修することはできない。

 乏しい知識を捻り出すと、悪魔がヤクザだというのならば、村人の中に下っ端構成員が紛れ込んでいる可能性が高い。そして、ヤクザが悪魔だというのならば、サンドラは構成員を炙り出すことができる。


 杖を突き付けて悪魔の気配を探し出そうとするサンドラに、村人たちは恐れ戦く。心なしかロザリオに彫られた顔の彫刻まで、村人たちをねめつけているようだ。

 しかし、どれだけ奇怪な姿をしていようと、ご領主様の娘に対して粗相があってもいけないから、ただ黙って身を寄せ合い、杖を向けられるとぞろぞろ逃げるだけだ。


 まるでサメに追い回される小魚の群のような光景だ。使用人たちは慣れているので黙ってサンドラについて回るが、慣れていない騎士たちはお嬢様を護りつつ、止めるべきか手伝うべきなのか、戸惑いの視線を騎士団長に向ける。

 フレデリクは悩みに悩んで、クワッと眼光鋭い視線を護衛騎士たちへ向けた。勢いだけは凄かったけれど、視線の意味は「何もするな」という、主家への忖度を多分に含んだ情けない視線であった。


 そんなサンドラを中心とした奇行も、マルティンの目から見れば娘と村人の微笑ましい交流だ。娘があんなにも頑張って村人に歩み寄ろうとしているのだから、父としても領主としても、この謎の事件に本気で取り組まねばなるまいと意気込みを新たにする。

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