第三話:ポンコツ勇者、スローモーションで敵を避けられるのか?
「なぁレオン……俺たち、本当に勇者と剣士なのか?」
翌朝、俺とレオンは王都のギルドに来ていた。
理由は単純、皿洗いのバイトをクビになったから。
「そりゃまぁ……肩書き的にはな?」
「勇者がバイトクビになるって、俺、異世界ナメられすぎじゃね?」
昨日発覚した俺のスキル『スローモーション』は、物が落ちる瞬間をスローで見るという、どう考えても戦闘に向かない能力だった。
だが、レオンはなぜか興奮している。
「いや、これはワンチャンあるぞ、タクミ! このスキル、攻撃を避けるのに使えるんじゃね!?」
「マジかよ……」
異世界での戦闘スキルが、避けることに全振りってどうなんだよ……。
~初めてのギルドクエスト~
「よう、新入りか? 仕事探しか?」
カウンターの向こうには、いかにもベテランっぽい女性受付嬢がいた。
俺はドキドキしながら尋ねる。
「えっと、初心者でも簡単な依頼ってありますか?」
「そうねぇ……お、ちょうどいいのがあるわ」
俺たちに渡されたのは、『スライム討伐』の依頼書。
「スライム退治なら、安全だし簡単だぞ」
「おお、それなら俺でもいけそう!」
異世界転生ものの定番モンスター、スライム。
ゲームでは最弱の敵として知られている。
これなら俺でも楽勝だろ!
「よし、レオン! さっそく行くぞ!」
「おう!」
~森のスライムは……強い!?~
「……おい、レオン」
「どした?」
俺たちの目の前にいたのは、
巨大なゼリーの塊だった。
「スライム、でかくね?」
「……うん、でかいな」
俺たちのイメージするスライムは、RPGでよく見る手のひらサイズの可愛いヤツだった。
しかし、今目の前にいるスライムは、直径2メートルはある。
「おい、受付嬢! 初心者向けって言ったよな!?」
俺が文句を言いたくなるのも当然だ。
目の前のスライムはプルプルと震えながら、明らかに俺たちを狙っている。
「まぁでも、スライムは所詮スライムだからな! いくぜ、タクミ!」
レオンが剣を構える。
「うおおおおお!! 必殺――ただの突き!」
ズブッ!
「……おお、刺さった!」
「やったか?」
レオンの剣がスライムの体内に深く突き刺さる。
が、次の瞬間――
ズルッ
剣がすっぽりと飲み込まれた。
「え?」
「え?」
レオンが剣を引こうとするが、スライムはプルプル震えて剣を飲み込んでしまった。
「お、おい、俺の剣が……!」
「おいおい、まさか――」
パキンッ!!!
レオンの剣が、スライムの体内で折れた。
「いやいやいや!!! 俺の唯一の武器が!!?」
「ちょっと待て、スライムってこんなに強いのか!?」
~スローモーション、発動~
「くそっ、こうなったら逃げ――」
ズルンッ!
スライムの表面が波打ち、俺たちに向かって巨大な触手のようなものを伸ばしてきた。
「うわっ!? 速っ!!」
「タクミ、避けろ!!」
俺は思わず身を縮める。
――その瞬間、視界がスローになった。
「……え?」
まるで映画のスローモーションシーンのように、スライムの攻撃がゆっくりと迫ってくるのが見えた。
「これが……俺のスキル……!?」
俺は咄嗟に体を横に動かす。
スッ……!
次の瞬間、元の時間感覚が戻った。
「避けた……!!?」
レオンが目を見開く。
「タクミ、お前まさか、攻撃をスローで見て避けられるのか!?」
「……俺にもよくわからんが、どうやらそうらしい」
そう、俺のスキル『スローモーション』は、敵の攻撃をスローで見られる能力だったのだ。
「おいおい、これってめちゃくちゃ強くね!? 攻撃を100%避けられるってことだろ!?」
「おおっ、俺って最強なのか!?」
「いや、でも攻撃手段がないな」
「……」
俺たちは顔を見合わせた。
「どうする、タクミ?」
「どうするも何も……」
俺は一言、勇者らしからぬ言葉を口にした。
「……逃げるしかなくね?」
「だよな!!」
こうして、俺たちは最初のギルドクエストでスライムから逃げ出した。
~ギルドにて~
「……スライム討伐、失敗?」
「はい」
ギルド受付嬢の前で、俺たちは正座していた。
「それどころか、剣もなくしたの?」
「……はい」
「スライムに手も足も出なかった?」
「……はい」
「君たち、本当に勇者と剣士なの?」
「「それ、俺たちも聞きたい」」
こうして、俺たちのポンコツ勇者ライフは、前途多難なスタートを切ったのだった。
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