第二話:勇者、初めてのバイト
「よし、タクミ。まずは金を稼ぐぞ」
俺を召喚したダメ剣士・レオンが、やたらと自信満々に言ってくる。
「え、普通、勇者って魔王討伐とかするもんじゃないの?」
「いや、俺たち今、宿代すら払えないじゃん?」
……それもそうだ。俺たちは昨夜、異世界に召喚されたものの、財布の中身はゼロ。 宿に泊まる金もなく、結局、レオンと一緒に町外れの納屋で野宿する羽目になったのだった。
勇者のくせにいきなり路上生活スタートとか聞いてねぇぞ!!
「ってことで、町の求人をチェックしたら、ちょうど良さそうな仕事があった」
「おお、何だ? 王宮の護衛とか?」
「皿洗い」
「勇者なのに!?」
異世界転生して初めての仕事が皿洗いとか、どんな地味な異世界ライフだよ……。
~王都『カランベル』の酒場『赤鼻亭』~
「おう、お前らが新人か! 皿洗いは根性がいるぞ!」
俺たちの雇い主であるオヤジが、大声で俺たちを迎えた。
見た目は完全に『気のいい親父』なのに、なんかノリが体育会系すぎる。
「とりあえず、お前は水汲み! お前は皿洗い! お前は床掃除! そしてお前は……あれ? なんだその情けない顔は」
「あの、俺、勇者なんですけど」
「はっはっは! 冗談は顔だけにしとけ!」
この世界、勇者に対するリスペクトなさすぎだろ!?
「まあいい、さっさと仕事しろ! 遅れたら罰金な!」
「「えっ!?」」
レオンと俺は顔を見合わせた。
給料が出るどころか、ヘタすりゃマイナス生活に突入しかねない。
「よし、ここは本気でやるぞ、レオン!」
「……でも俺、こういうの苦手なんだよな~」
「お前、剣もダメで仕事もダメって、マジで何ができるんだよ!?」
~勇者、異世界で皿を割る~
「うわっ、すべった!?」
ガシャーン!!
皿を洗うつもりが、手が滑って一気に10枚割ってしまった。
「お、おい、マジかよ……」
「うっ、俺の給料が……」
オヤジが走ってきて、俺を見下ろした。
「お前、勇者って言ったな?」
「えっ? は、はい……」
「皿洗いもできない勇者なんて聞いたことねぇ!!」
「そんな基準で勇者の価値を測るのやめてもらえませんかね!?」
俺は絶望した。
もしかして、俺の異世界ライフ、詰んでる……?
~最弱勇者、突然の才能発覚!?~
「なぁ、タクミ……」
皿洗いをクビになった俺たちは、酒場の隅っこで水を飲んでいた。
完全に人生に絶望していたが、レオンが不意に言った。
「お前、なんかスキル持ってねぇの?」
「持ってたら、最初からレベル1・スキルなしって言われてねぇよ……」
「いや、でも……今さ、皿が落ちるの、ちょっとだけスローにならなかったか?」
「は?」
俺は思い出す。
確かに、皿が落ちる瞬間、スローモーションみたいになったような……。
「試しにステータスを見てみろよ」
言われるがままに、俺は「ステータス」と呟く。
すると、目の前に半透明のウィンドウが表示された。
――――――――――――
タクミ(勇者)
Lv:1
HP:10
MP:5
スキル:スローモーション(NEW!)
――――――――――――
「スローモーション……?」
よく見ると、さっきまでは空欄だったスキル欄に、新しいスキルが追加されていた。
「まさか……皿を割ったせいで、スキルが発現したのか?」
「つまり、お前の勇者スキルは……物が落ちる瞬間をスローで見られる能力!?」
「弱っっっ!!!」
俺の勇者ライフ、どう考えてもハードモードだろこれ……。
「……まあ、皿はもう割らずに済むかもな」
「皿洗いに特化した勇者スキルとか嫌すぎるんだけど!?」
こうして、最弱勇者とダメ剣士の冒険は、未だ始まらず……!
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