たまには真面目な話しでもいかが?
西門に着き、そこから見渡す草原の先に黒い何かがうごめいているのが分かる。
たぶんあれが全て魔物なのだろう。
「勇者様が魔王を倒しに行ってからだいぶ減ったが魔物の襲撃は本当に勘弁して欲しい」
俺の隣にいる兵士がため息交じりにそう呟いた。
守る側としては確かに勘弁して欲しいのだろう、なんせ数は3倍以上違うのだから。
ってかこれ、守りきれるのか?
魔物避けの外壁はあるにせよ、あの数で攻められたらひとたまりも無いだろう。
「前回の襲撃は勇者様が居られたから凌ぎきれたが、今回はどうか・・・・・・」
「なに? 今勇者とか言ったか?」
「なんだ?」
「一つ教えてくれ、勇者と一緒に黒髪黒目の男は居なかったか?」
「あぁ、大魔道師様のことかい?」
「大魔道師?」
思わず聞き返してしまった。
あの兄が大魔道師?
ぴったり過ぎる。
むしろ天職だろう。
「あぁ、空から炎を纏った石をいくつも降らせたり、暴風に氷を混ぜたりと、今までに無い魔法をすさまじい勢いで使っておられたよ」
メテオストームにブリザードかよ、どんな大魔法連発してんだよ。
そんなことより、あの兄が魔法なんぞにはまり込んだのならそうなるだろう。
なんせ天才の名を欲しいままにするIQ300オーバー確定の化物だ。
あの頭の柔軟さと発想力+知力は運動神経の悪さを補って余りある。
一度ゲームプログラムを組んでいるところを目撃したが、右手と左手で別々のプログラムを組みながら音声入力でさらに別のプログラムを入力するような奴だ。
おまけにそれが一つのゲームプログラムというのだからそこが知れない。
兄は実家暮らしだが、趣味用に別アパートの一室を借りている。
そこに措かれている9台のパソコンは兄のお手製であり、全てがスーパーコンピューターと言っても差し支えない機能と処理能力を有する。
そんな兄が魔法。
もう勇者いらねぇんじゃねぇの?
つか魔王すら平伏してたりして。
そんな疑問が延々俺の頭の中を渦巻いていたが、隣の兵士に来るぞっと声を掛けられはっと我に返る。
「ラル、ミャオを抱えて外壁の上にでも避難してろ」
ラルは今武器が無い、武器がなければラルはただの女の子だ。
てか、絶対に武器は持たせない。持たせたら俺が危ない。
流石に今回は力を出し惜しみしている場合じゃないな。
「初撃は俺がもらった! 祖父直伝抜刀術七ノ型・断空鎌鼬!」
魔物の大群に向けて俺はその場から動かずに宗近を抜刀、それと同時に即座に鞘に戻す。
チンという音と共に先頭に居た魔物がばっさりと切り裂かれその場に崩れ落ちた。
それにぶつかった魔物が勢いを落とし、そこに後ろから来た魔物がぶつかり統制は一気に崩れた。
なんというか、やはりこれも威力がおかしい。
地球ではせいぜい50メートル離れた位置から木の幹に傷跡をつける程度しかできなかったのだが・・・・・・
フム、今はそんなことはどうでもいいか。
俺が気を取り直して第二波を放とうとしたとき、俺の右ポケットからバ○プの天○観○が流れた。
く、こんなときに一体誰だ!
ポケットから携帯を取り出しで通話ボタンを押す。
「はいもしも『ヤミぃ!昨日からどこほっつき歩いてんだ!! 今日の夕飯作りはヤミの番だろうが!! さっさと帰って来い!!』」
この罵声、我が妹鈴音に間違いないだろう。
「鈴音か! 落ち着いてよく聞け、今兄を迎えに異世界?だか何だかに来ててしば「グォオオオオオオオオオオオオオオ」」
『あぁ!? 何、なんて言った!? っつかうるせーんだよ!!』
電話をしている間にこちらの先頭に立つ兵士たちとぶつかったらしく激しい戦闘音が響いてきた。
「後で掛けなおす!!」
俺はそれだけ言って電話を切った。
宗近に手を掛け、久しく出していなかった全力を出して魔物の軍勢にぶつかった。