旅に出ることにした。おまけつき
俺は今この上ない命の危機に曝されている。
俄然ドラゴンを思わせるほどの怒気とオーラを放つ国王と侍女達。
対する俺は城のどこぞの壁に背を預けて逃げ道を探している状況だ。
なぜこんなことになっているのか、これには海よりも深い理由がある。
先の試合で俺がヴァラルアの大剣を切ったのは覚えているだろうか?
そのとき、力加減を間違えていたらしく、ヴァラルアの衣服までこうすっぱりと切り裂いてしまったわけだ。
試合終了が言い渡された後、時間差で衣服がはだけ、それに気づいたヴァラルアはやや顔を赤らめて「・・・・・・エッチ」と呟いた。
思いのほか破壊力が強かった。
俺は何とか堪えたが半分くらいの兵士や騎士が鼻から血を噴射して倒れた。
そこに来て国王が切れた。
怒りの矛先は無論俺、俺はそのとき自分の上着をヴァラルアに着せていたところで、後ろを見ておらず、ヴァラルアが行き成り足払いをしてきたのに驚いてなすがままになっていたところ、ヒュンという音と共に髪が数本中に舞った。
・・・・・・・・・は?
何が起こったのか理解できずに入ると、背後に居た国王が
「娘になんてことしてくれとるんじゃ貴様ぁぁ!!」
怒気のはらんだ声とともにヴァラルアがこの国の末姫だということが分かった。
そこでさらに冷や汗が流れた。
あと少しでも力加減を間違えればヴァラルアは間違いなく真っ二つだったに違いない。
そんなことになれば死刑は免れないだろう、なんせ服でこれだ。いや、服だからこそ・・・かな?
「半殺しの四肢切断で勘弁してやる」
それ、許すって言わない!
じりじりと距離を詰めて来る国王&メイド軍団。
こうなれば腹を括るしかないのか?
打開策浮かばず。もう駄目かと思ったそのとき、背後の壁をぶち破った何かが俺の服の襟を掴んでそのまま引っ張った。
ぐえぇ、首が絞まってる!
「逃がすかぁ!!」
国王の怒声がどんどん遠ざかりつつ、俺の意識もどんどん薄れていく。
これが比例・反比例の法則ですね・・・・・・
お花畑が見えかけた辺りで俺は解放され、ぜーはーと息ついた。
「た、助かったが、掴むところをもう少し考えてほしかった。危うく天に召されてしまうところだった」
落ち着いてから助けてくれたであろう人物を見やる。
そこに居たのは先ほど剣を交えたヴァラルアその人だった。
そしてここは城から少し離れた屋敷の屋根の上。
服は先ほどとは違うが似たような皮鎧、その上に俺の服を羽織っている。
大剣は持っていないようだが、人一人抱えて屋根の上まで軽く飛び上がる身体能力には目を見張るものがある・・・・・・ではなく
「なぜ、お前がここにいる」
そう、なんでこいつが俺を助けたのか理由が分からない。
俺の問いかけにヴァラルアは無言でジャラジャラと鳴る皮袋を差し出してきた。
たぶんこれは財布なのだろう。受け取って中を開けてみると金色のメダルがジャラジャラしてた。
「これは、国王が?」
俺の問いかけにヴァラルアはふるふると首を振った。
「じゃあ城から盗んできたとか?」
ふるふる
「このお金で俺を買うとか?」
ふるふる
「もしや君のお駄賃?」
こくこく
この金色メダルの山がお駄賃とか流石王族だ。
しばしあっけに取られているとヴァラルアは何かを言いたげにこちらをジーと見つめてきた。
このヴァラルアという少女、どこか円に近いものがある。
「一緒に旅に連れて行け・・・とか?」
こくこく
なんとなくだが言いたいことが分かってしまうのが複雑な気分だ。
「わかった、ここまできたらもう戻れないというか、下りれないし、一緒に行こう」
今戻ったら間違いなく国王に殺される。
憤怒した国王は本気を出した祖父に近いものを感じた。
あれは、殺る者の目だ。
「そういや荷物、城に置きっぱなしだったな・・・・・・」
ため息混じりに城のある方を見やる。
捨てられはしないだろうが色々と惜しいものが詰まっていた。
「まぁ、仕方ないか」
こうして俺とヴァラルアは共に旅に出ることになった。