どうしてこうなった・・・
さて、少し状況を整理しようか。
今俺が居るのは煌びやかな調度品がこれでもかと置かれた家のリビングより広い一部屋だ。
キングサイズのベッドに沈み込むほどに柔らかい絨毯、置かれたテーブルや椅子も一目で豪華な物だとわかる。
そう、ここは中世よろしく建てられた城の客室である。
どれほどの広さがあるか分からないが一日二日では見て回るのは不可能だということだけは分かる。
そもそも、なぜ俺はこんなところに居るのか、そっちの方が重大な疑問なのだがこれを気にしっかりと思い出すことにしよう。
―――回想―――
兄からのメールに再び俺の思考はショートしたに違いない。
でなければ、部屋に入ってきた妹が俺の手から携帯を奪い取るのを黙ってみているわけが無いのだ。
「ちょっとヤミ、これはどういうこと?」
鬼神阿修羅と同等の気迫を放つ鈴音にポツポツと事のあらましを説明すると、鈴音は笑顔で
「何が何でもコウ兄迎えに行って来い」
と、俺の首を締め上げながらお願い・・・元い、命令された。
このとき俺は三途リバーに腰までどっぷり浸かっていた事だろう。
閑話休題
俺はまず兄が奇行に走った原因を調べることにした。
兄が劇的に変わってしまったのはあの時のあれが原因だろう。
謎のホームページとくだらない謳い文句、あの時俺は何かのみ間違いだろうと速効で目を逸らしたのを覚えている。
『あなたも勇者と共に冒険に出てみませんか?』
あまりにも痛すぎる。
そんな馬鹿げたホームページを兄が見ていたなどとは思いたくなかった。
現実思想で非科学的なことは目で見るまで信じない、現実主義者なあの兄が、まさか魔法だのなんだのとそんな物をなぜに調べているのかも理解不能だが、あれが原因なのは間違いないだろうと俺は思っている。
基本俺はパソコンを使わないから唯一の使用者であった兄が居なくなってからはまったく起動していないそれを一月ぶりに起動させる。
使わないからと言って使えないわけではない、そんなことより俺は外で“狩り”をしている方が好きなのだ。
パソコンが起動してインターネットを立ち上げる。
そこから履歴を調べて兄が見ていたであろう妖しさ爆発のあのホームページに飛んだ。
やはりいつ見ても目を逸らしたくなるな。
トップにでかでかと
『あなたも勇者と共に冒険に出てみませんか?』
と書かれており、勇者一行とか魔王軍とかバックグラウンドとかのタグがあった。
とりあえずまずはバックグラウンドから見るべきだろうとクリックする。
そこに書かれている内容はファンタジー系小説ではありきたりもいいところなほどありきたりなものだった。
~~~~~~
あれから数時間、いくつか分かったことがある。
まずその星に名前はない。
いくつかに別れた大地を称する名称があるだけだ。
まずは一番大きな大陸がラナセアと言う。
この大陸には三つの王国があり均衡を保っていると書かれている。
次に大きい大陸にはハウメルと言う名前があり、広大な森と山が連なる魔物の巣窟らしい。
後は小さな島々が連なるピノユ列島がある。
ここは別名東国とも呼ばれ独特な文化を持っているらしい。
まずはラナセアという名前をクリックして詳細を開く。
台形を斜めに崩したような形をした大陸を丁度三等分して、北にベルバンド、東にクオルカン、西にマウケラスと書かれている。
マウケラスは商業国家で物流の中心となっているらしい。
東のクオルカンは領土内山脈と鉱山を持ち、良質な鉄を国外におおく輸出している。
北のベルバンドは亜人たちの暮す広大な森になっている。
ここの国だけは王が人間ではなく長寿を誇るエルフらしい。
さて、戻って次にクリックしたのはハウメルという大陸だ。
広さがラナセアの半分くらいで、殆どが人の手の入らぬ森で覆われており、連なる山々は地球で言うエベレストと同等かそれ以上の標高を持っている。
山頂はほぼ雪で覆われており永久凍土で生物は殆ど居ない。
最後にピノユ列島だが、島々を全て合わせてもハウメル大陸の三分の一にも満たない。
しかし比較的日本に近いらしく四季があり、武器も日本刀のような切ることを主体にした武器が主で他にも薙刀やクナイなんかもあるらしい。
ホームページを見ててふと興味を引かれた項目がある。
言わずもかな、魔法だ。
魔法には大きく三種類あるらしい。
元素魔法、非元素魔法、精霊魔法の三種類だ。
ただ、魔法に分類されない東国の式術と言うのがあるがこれは別項目だ。
元素魔法は四大元素を基にした物だ。
火水風土、これを元に、鉄、氷、雷、木などの派生系も数多く存在している。
次に非元素魔法だが、こちらは元素を用いない空間、時間、変化などが上げられる。
人間に使えるのはここまでだが、亜人族にはさらに精霊魔法というのが使えるらしい。
精霊魔法は自然に大きく影響され、水辺なら水系統、風が強ければ風系統が、という風に威力が変わる。
そのため、自然との共存を絶った人間には使えない。
魔法には決まった形式が無く、一般人らが各々好き勝手に使える。が歴史に名を残す程に強力な者は少ないらしい。
一応、基本魔術書はあるらしいがあくまで基本、そこから自由に変化させていくのが魔術師としての第一歩らしい。
魔法を使うには呪文を唱えるか、魔方陣を描くかする必要がある。
これは世界に漂う魔力を集め、己の内にある魔力を混ぜ合わせる工程だからだ。
それ以外の事は書かれていなかった。
・・・なるほど、可能性は無限大って訳ですね!
そんな馬鹿なことを頭の片隅に追いやり、式術について見てみることにする。
式術とは、符術や陰陽道に近い物だった。
紙に特殊な文字を書き込み、それを媒体として行なう儀式や複雑に組まれた法則や関係を表したものである。
まんま陰陽師である。
関係も五行説の通りで、木火土金水で構成されている。
なるほどなるほど、異世界でも日本的文化は異質なのですね!
一頻り重要項目には目を通し、最後に「異世界へ」と書かれたタグをクリックしようとしてふと、手が止まる。
これを押した瞬間すっ飛ばされるとか?
・・・・・・無いとは言い切れない。
俺はホームページをそのままに準備を始めた。
旅行用のトランクに3日分の着替えと必要そうな物を片っ端から突っ込んだ。
乾電池交換式携帯充電器、単三電池30+2本パック、i○odク○シック120G・6000曲入り、乾電池交換式i○od充電器、手鏡、懐中電灯、デジタルカメラ、筆記用具、メモ帳、etc・・・
以上をトランクに詰め込んで、自分の手に持った荷物を確認する。
ジーパンの右ポケットには携帯、左には財布(小銭要れ)、ベルトには家宝であり天下五剣に数えられる、三日月宗近(本物)を引っさげていざ、「異世界へ」をクリックした。
・・・・・・・・・・・・・・・?
何も起きない。
靴まで履いて部屋の中でトランク片手に刀引っさげて、こんな格好を見られたら笑いものもいいところである。
俺がイラっとして宗近を引き抜こうとしたした矢先、パソコンの画面から魔方陣と呼ばれるそれが浮かび上がり、俺を包み込んだ。
一瞬のホワイトアウトの後、気がつけば俺はどことも知れぬ平原に突っ立っていた。
「マジで異世界に吹っ飛ばされちまったよ・・・・・・」
あまりにも唐突過ぎる状況に愕然とするあまり、周囲に人が居ることにまったく気がつけなかった。
気づいた時には既に槍の先を向けられ、身動きの取れない状態で、逆にそれが俺を冷静にさせた。
中世のプレートアーマーらしき物を着込んだ兵士に、一人だけ馬に乗ったえらそうな奴が警戒しつつこちらに近づいてきた。
「貴様、何者だ? ここでいったい何をしている」
おそらくこいつはどこぞの国から派遣された騎士団の団長か副団長とかいう辺りだろう。
ならば話は早い。
「俺は久我 門音、以前この世界に現れたはずの久我 聖の弟だ」
そう名のった俺はその騎士たちに連れられて城まで案内された。
そうして今日は遅いからと部屋に案内された訳だ・・・・・・・