今更だけど硬貨について
魔女とは基本的、我侭な種族だという。
「は? 今なんていいました?」
「なんだい、その年でボケちまったのか?」
「いえ、そうではなくて・・・・・・」
各言うこの女医さんも魔女な訳で。
「だから、入院費等その他もろもろ占めて10万セルだっつってんの」
セル、この世界の通貨名称で鉄貨1枚1セル。
銅貨が1枚が10セル、銀貨が100セル、金貨が1,000セル。さらにこの上に白金貨という物が存在し、これ一枚で100,000セルというふざけた高価だ。
慎ましく過ごせば一般庶民(四人家族)が一月(35日)生活するのに大体銀貨7~8枚で足りる。
贅沢をするにしても金貨1枚あれば十分だろう。
この世界には土地代やら保険料やらは存在しないのだ。もちろん税は存在するが、それもそこまで酷くない。おまけに学校という概念が無い。いや、あるにはあるが魔法学校なのだ。
入学費などが馬鹿高く、貴族くらいしか入学できないと来た。
因みに1セル=120円位だろう。
なんと大雑把な、とは思ったがよくよく考えてみれば日本が細かすぎるのだ。
だって考えてみてくれ、硬貨が何種、札が何種あるか数えてみてくれ。
1円、5円、10円、50円、100円、500円、これだけで6種類、さらに札で1,000円、5,000円、10,000円と追加3種で合計9種類、以前存在した2,000円札(今は消えたが)が入れば計10種だ。
そんなものが全て純鉄、純金なんかで用意されたらそれだけで重くて動けなくなるし、何より邪魔だ。
紙は存在するが、技術の発達していないこの時代からしてみれば紙は高級品なのだ。
そんな物をいつ破られるか分からないお札などという物にしようという考えなど浮かぶはずが無い。
さて、現実逃避もここまでにしよう。
俺たちの手持ちは今、金貨39枚と銀貨2枚、銅貨が5枚の鉄貨7枚だ。
本当は40枚あったのだが、色々と旅路に必要なものを買い込んだらこうなった。
女医さんの言う100,000セルまであと金貨61枚ほど足りない。
そもそもが法外な治療費を取る医師として有名だったらしいが(腕は折り紙吐きだが)、ここまで法外な額を吹っかけてくるとは流石に予想外だ。
というか、ラルがおこずかいとしてそんな馬鹿げた額もらってたことにもビックリだが・・・・・・
だって金貨1枚1,000セル=120,000円だぜ?
それが40枚あるとか普通に500万円近い額ってことだぜ?
ラルが言うには一月金貨1枚しかもらってないとか言うが、それでも一家族の一月の生活費より高いってなんの冗談?って言いたくなる。
しかし、そんなラルの財産を持ってしても足りない治療費を請求されて俺ははたはた困っていた。
犬派が講義の声を上げたが、女医さんに口論で負けて部屋の隅でいじけてしまった。
「ふむ、払えないならば別のもので支払ってくれてもいい」
どうしようかと悩む俺らを見て女医さんがそう持ちかけてきた。
そのとき、女医さんがニヤリと微笑んだのは見なかったことにしよう。
「俺らで払えるものならば・・・」
引け腰になりながらもそういうと、女医さんはとんでもない事を口にした。
「そうだね、まずはその太刀。見たところ相当な物だろうからね10万セルなんで目じゃないだろう」
「次に、少年あんた自身だ。なかなかいい男だし持ってる医療知識も興味深いからね、あたしの13人目の夫にしたげるよ」
「んで最後に」
女医さんがそう言いかけたところで部屋の戸が開けられ元気な声と共に何物かが飛び込んできた。
「ちょっとママ、これ見て!」
この世界に来てこの上ない衝撃を受けた瞬間だった。