とりあえず、体が痛いです
何だかラルちゃんが空気です。
意外とミャオが活発で困る・・・・・・
スースーと聞こえる寝息に俺はゆっくりと目を覚ました。
どうやら元の体に戻ったらしい。
左腹部と右胸部がおかしいほどの痛みを訴えている。
あ、やべぇ、これ、死ぬかも・・・・・・
俺が痛みに意識を再度どこかへ飛ばそうとしていると、もぞもぞと動く何かがそのまま顔に落ちてきた。
「ふぶっ」
「きゅい~」
必死に顔を動かして落ちてきた何かを退かす。
転げ落ちるように俺の顔の上から落ちたミャオが嬉しそうに鳴き声を上げながら俺の顔を舐める。
ざらついた舌が鑢みたいで地味に痛いが微笑ましいし、何より猫だから許す。
ミャオがきゅいきゅいと騒いでいると、俺の胸の辺りで何か動いた。
ミャオから視線をはずしてそちらに顔を向けると、ぼんやりとした表情のラルがこちらをジーっと見ていた。
言いたいことはなんとなく分かる。
だって目が赤い。
「心配かけてごめんな」
左手を動かしてラルの頭を撫でると、気持ち良さそうに目を細める。
こいつ、猫みてぇだな。
猫耳とかつけたら似合いそうだぁ~と若干危ない方向に思考が走っていたところでラルが再び俺を枕にするように頭を預けてきた。
ご丁寧に心臓付近に頭を乗せて鼓動が聞こえるような体勢を取っている。
そのままスースーと寝息を立て始めた。
どうやら真夜中らしい、昼間なら聞こえるはずの活気ある声がまったく聞こえないのだ。
ならばと俺も再び眠りにつくことにした。
ラルとミャオの顔を見たらなんだが痛みもさほど気にならなくなったしな。
次に俺が目を覚ますと、ラルとミャオの他に、見慣れぬ顔の男が居た。
「お、ようやくお目覚めか」
「・・・・・・・・・誰だ?」
俺がその男に向かってそう言うと、男はショックを受けたような顔で
「おいおい、いくら3日も寝てたからと言ってライバルの顔を忘れてもらっちゃ困るぜ、猫派」
と、言い返してきた。
そうか、俺は3日も寝てたのか。
それにこいつ、今俺のことを猫派とか呼びやがったよな?
「お前、もしかして犬派の兵士か?」
「うん、まぁ間違っちゃいないが今日は非番だ」
だから兵士じゃないさ、といけしゃあしゃあと言った。
最初に会ったときはヘルムを被っていたから分からなかったが、私服姿でいるこいつは整った顔立ちをしていた。
ぞくに言うイケメンである。
「・・・・・・イケメンなど滅びてしまえ」
恨みの篭った声で呟いたがどうやら聞こえなかったらしい。
いや、あえて無視しやがったなこいつ
「っと、お前が意識取り戻したら声掛けるように言われててからちょいとセンセの所行ってくるわ」
「あぁ、わかった。ってか口調ちがくねぇか?」
「こっちが素だ。兵士ってのは得てしてめんどくせーもんなんだよ」
なるほど、公務員みたいなものか。
犬派の兵士はさっさと部屋を出て行ってしまい、部屋に残されたのは俺とラルとミャオ。
ラルはというと、座った椅子の上でミャオを抱えたまま先ほどからジーと俺の顔を眺めている。
そんなに俺の顔って見てて面白いのか?
「なぁ、俺の顔なんか眺めてて面白いか?」
俺の問いにラルはコクコクと頷いた。
それに合わせてミャオもコクコクと首を動かしているのがなんとも可愛い。
ラルとミャオで和んでいると部屋の戸が開けられ、入ってきたのは白衣の女の人だった。
「おっと、随分元気そうじゃないかい」
白衣の女性(犬派が言ってた先生だろう)が、ツカツカとベッドの脇まで来ると、
「ちょいと失礼」
と言って俺の着ていた服をはだけた。
「ふむ、手当ての経過概ね良好って所かね。おっと、まだ動くんじゃぁないよ、傷は塞がっても失った血液までは戻らないからね」
触れて来た女医さんの手は俺の体より幾分か温かかった。