甘味なデザートでお口直しでも。
今回はあまあまです。
誰と誰がとかは言いません。
だってねぇ・・・
どうにか魔物の軍勢を退けたことを確認した俺はすぐさまその場に崩れ落ちた。
どうやら血を流しすぎたらしい。
当たり前か、左腹部と右胸を魔獣の触手に貫かれた上、袈裟懸けにばっさりと切られているのだ。
むしろよく動けていたと思う。
最後の最後まで俺の近くで戦いぬいた犬派の兵士が必死に何かを叫んでいるが俺の耳には届かなかった。
きっと届いていたのだろうが理解できるほどに頭に血が回っていなかったのだろう。
フェードアウトしていく視界の端でミャオがこちらに走ってくるのが見えた。
いつの間にか俺は真っ暗な空間に居た。
もしやここは死後の世界か?
などという考えが浮かんだが、自分から伸びる細い糸のようなものがあるのに気づき、とりあえずそれを辿ってみる事にした。
辿っていく途中、今にも切れてしまいそうな状態になっている場所があり、大丈夫かなと俺が手を伸ばすとたちまち直ってしまった。
そんなことを何度か繰り返しながら進んでいくと、不意に視界が開けた。
見覚えのある場所、ここは俺と兄の部屋だ。
その俺たちの部屋の、しかも俺のベッドの上には驚くことに鈴音が眠っていた。
瞼が赤く腫れ上がり、頬には涙の後が見て取れる。
泣いていたのか・・・・・・
そこではたと気づく。
俺から出ている糸はそのまま鈴音に繋がっているのだ。
もしやこれは・・・・・・
俺がそう考えたとき、寝ている鈴音が「門音ぇ・・・」と呟いた。
鈴音が俺の名前を呼ぶのは珍しい、よほどのことがない限り決してその名前では呼ばない。
そんな鈴音を愛おしく(家族的かつ妹的な意味で)思い、そっとその頭を撫でようと手を伸ばす。
しかし、俺の手は鈴音の頭に触れることなくすり抜けてしまった。
そして、ここまで近づいて鈴音がなぜ泣いていたのかを知った。
悲しみに暮れる鈴音の心の中に俺が居たのだ。
正確には何かに貫かれて命を絶った俺が。
もしかしなくてもあの時のことが鈴音にも伝わっていたのではないか?
鈴音がさらわれてセクハラをされたときに、俺の体にも触られた感触と悪寒が走ったように。
見ている夢の内容までは分からないが、この分だと良い夢ではないだろうと俺は鈴音を起こすように呼びかけた。
すると、鈴音はゆっくりとだが瞼を開いた。
「あれ、あたし・・・・・・そっか、門音が死んで、それで・・・・・・」
『鈴音鈴音』
「あれ、おかしいな・・・・・・幻聴まで聞こえる」
『幻聴じゃないからこっち向け』
俺の必死に呼びかけに鈴音がこちらに顔を向ける。
そして驚愕の表情で叫んだ。
「門音!?」
『そうだよ、心配かけたみたいでごめんな』
「ほ、本当に門音なのね?」
『疑り深いなぁ、俺以外に何だって言うんだよ』
「だ、だって門音、お腹と胸を貫かれて・・・・・・」
『鈴音、よく見ろ』
そこで気づいたようで、鈴音はベッドの上を這いずって俺の近くまで来て、そのまま手を伸ばし・・・・・・
俺の頬を叩く様に手を振った。
しかし、その手が俺に当たることはなかった。
「透けてる・・・・・・」
『普通は叩かないよね、当たったらどうするつもりだったんだよ』
ため息交じり呟く俺とは対照的に鈴音は今にも泣きそうだった。
『え、あれ、鈴音、どうした?』
「門音ぇ、あたしを置いて逝かないで、あたしを一人にしないでよぉ・・・・・・」
その言葉に俺は息を呑んだ。
生まれてからずっと、どこかで感じて居た存在が失われるというのはどれほどの衝撃なのだろうか・・・・・・
布団をぎゅっと握り締めて今にも泣きそうな顔で俺を見つめる鈴音に、俺は安心させるようにできるだけ優しい声で囁いた。
『大丈夫、お前を置いて逝くなんてことはしない。必ずお前の傍に居る』
「約束・・・・・・だからね、お兄ちゃん」
鈴音にそんな呼ばれ方をするなんて思っていなかった俺は柄にもなく動揺していただろう。
そんな時、引っ張られるような感覚がして俺の体がどんどんその色を失っていく。
『鈴音、どうやらそろそろ体に戻らなきゃいかんらしい』
「うん、ちゃんと返って来いよ」
どうやらいつもの調子を取り戻したようだ。
『あぁ、それまで家のことは任せたぞ』
お互いに頷きあったそのとき、俺と鈴音をつなぐ糸がその存在を主張するかのように輝きと太さを増した。
そんな気がした。
けど、それを確かめる時間もなく俺の意識は暗転した。
まぁ、しょうがないと思うよ?
だって双子だし、半身だし、あれだけの傷負った場面見せられたら普通死んだと思うわけだし、何気に鈴音ちゃん好きだし、悲しみに暮れるとかマジありえないと思うわけで、どうにか持ち直す方向で考えてたら偉いことになってしまった。
というわけで次の話しは異世界に戻ります。
↑どういう訳だって突っ込みは無しで