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あなたといっしょ

ずっと、ずっとそばにいたいと思っていた。

 私は君と正反対だ。休日は必ず何処かへお出かけする私に対し、君は家に篭って読書しているらしい。私は勉強が苦手なのに、君は勉強が得意みたいだね。私は人といる方が好きなのに、君は独りでいる方が多い。

 どんどん、どんどん、君の事を知っていく度、もっと知りたくなる。だから、私は君の事をこれからも——。

 そう、思っていた矢先だった。

「やめて下さい」

「……え?」

「僕に付き纏うの、もうやめて下さい」

 放課後の体育館裏で、君は私を突き放してきた。なんで……ただ、私は君の事を知りたいだけなのに。知って、そばにいたいだけなのに。

 何で!

 気づいたらカレは、私の前で倒れ伏していた。私の手には、すぐ近くの体育倉庫にある野球バットが握られている。そして、カレの頭から赤い宝石のような雫が、地面の土に落ちて染みていった。

 私は慌てて駆け寄り、頭の傷口を探して、抑える。カレを構成する、大事な一部だ。私以外に浸透させたくなんか——違う、違う、今はそんな事を考えてる場合じゃない。

 触れた部分から脈動を感じる度、私が最愛の人を殴ったという事実が責め立てられていく。今なら、まだ大丈夫だよね……助かるよね……でも、頭を大きく割る程の大怪我を負わせた私はどうなるの……? 

 私の周りにいた人達は、私と仲良くしている人達は、絶対拒絶されるだろう。そんなの、想像したくない。家族は私の事、存在自体を否定している。だから、私は他の人といなきゃいけない。そうしないと、冷たく、暗い底で、じっと蹲る事になる。今、地面にへたり込んでいる瞬間と、同じだろうか。腹の底から寒々とした震えが、私の血液を踊り狂わせる。

「ねぇ」

 カレの声が細く、でも芯を確実に持って、私の心を突き刺した。恐る恐る、カレに瞳を向ける。

 カレの瞳は、何故か、面白がっていた。思わず目を見開いた私をよそに、口をゆるりと開く。

「ボクが、貴女の傍にいるから。だから今は、ボクだけの事を、考えて」

カレの傷口を抑えていた手が、冷たい何かと重なる。これは、何だろう。その答えを得る前に、私の手が思いきり、カレの傷口に入った。私は慌てて手を引っ込めようとするも、冷たい何かがそれを阻止する。

 何が起きたんだろう。それは、カレの顔が歪んだ口元が微かに笑っている様子を見れば、すぐに分かった。

 カレは私の手を自らの傷口に深く、深く食い込ませ、身体の力を徐々に抜かしていった。私はそれをただ、見守った。

 先程よりも脈動がより身近に感じ、生温かい体液が、私の手を伝う。カレの生きる源を、ギリギリまで触れさせてくれるなんて……。得体の知れない痺れが、傷口に触れている手の先から、全身に広がる。

 カレの手が完全に冷え固まった後でも、ワタシは傷口に手をくっつけたまま、暫く余韻に浸ったのだった。

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