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第九十九話 王国剣士団本部

 そして一時間ほど飛ぶと、王都にある王国剣士団本部に到着した。


 幸い、黒の竜は意外と従順で、どうしても無理だったら言霊でも使ってしまおうかと思ったが、その必要は全くなかった。


 竜専用入口から本部に入ると、そこには王国剣士団の人たちが何人かいて、すぐに竜と魔術師は連行されていった。


『雷、ありがとな。……結局、休憩取れなくてごめん』

「くぅーう」


 雷は大丈夫と言っているかのようにじゃれて来る。


『ふふっ……ゆっくり休んで、雷』


 本当ならもっと一緒にいたいところなのだが、俺にだって仕事があるし、長旅で怪我をしていないかも診てもらう必要がある。


 俺は担当の人に雷を任せ、小さい荷物を持って本部の奥の方に向かおうとする。


「水風さん!」


 誰かにそう呼ばれ、その声の方を見ると、そこには同じく王国剣士団の人がいた。


「幹部がすぐに用件を伝えるように、と。すでに待たれております」

『そうですか』

「こちらへ」


 その人に案内され、俺は本部の少し大きな会議室に呼ばれた。


「こちらです」


 そう言うと、その人はそのまま下がって行った。


『そのまま繋いでくれないのかよ……』


 誰にも聞こえない状態でそう呟いて気持ちを整え、俺は少し息を吐いてから大きな扉をノックした。


「はい」

『辺境剣士団、水風文人です』

「入れ」

『失礼します』


 扉越しでもテレパシーは届くようでよかった。と安心しながら、俺は扉を開けて中に入る。


 部屋の中には四人の男たちがいて、どの人も制服が他の人より少し違っているように見える。


 おそらく、幹部クラスの人物なのだろう。


 それが四人並んでいると思うと、少しゾッとする。


「よく来てくれた。文人くん」

『え、あ、どうも』


 急に名前を呼ばれて少し驚くが、王都なんて特に水風という苗字を持つ人が多い。下の名前で呼ばれるのは普通か。もう今さら、驚くことでも何でもない。


 でもやはり、そういう幹部クラスから下の名前で呼ばれるのはやはり違和感がある。しょうがないことなのだが。


「途中、隣国の刺客に襲われたらしいじゃないか」

『あ、ま、まあ……』


 あれは刺客と呼べるのだろうか。おそらく、辺境でも入ってきていることは気付かれていて、だから兄ちゃんたちが来た。刺客っていうのは、誰にもバレずに近付いてくるものなのではないだろうか。


 だが、今はそういうことにしておこう。幹部の前だし。


「こちらもそんなものに苦戦するとは思っていないが、とにかく無事でよかったよ」

『あ、ありがとうございます』


 何をもってそう言えるのかわからないが、今はそれを気にしている場合ではない。


『早速、本題なのですが……』

「ああ、そうだったな」


 俺は荷物を置き、その中からリーダーから預かってきた書類を、横並びで座る四人の前に差し出した。


「これは……?」

『リーダーから預かってきたものです』

「何があったんだ?」

『隣国が宣言通り侵攻を開始したのですが、その際に通信障害が発生し、それが隣国によるものだと思われています』

「そうなのか……」

『なので、二度とそのようなことが無いよう、通信回線をより強化していく必要があると思います』

「なるほど……前向きに検討させてもらうよ」

『そうですか』


 すぐに答えは出ないのか。これはすぐに答えを出すべきというか、断る理由もないことだと思うが……


「いつまでこっちにいるんだ? 君は」

『数週間。答えが出るまで待ちますよ』

「そうか。なら、決まり次第また連絡させてもらう」

『わかりました』


 一応、早く決めようという気はあるのだろうか。まあ、わざわざ俺を呼ぶということは、通信回線が脆弱だということは理解しているようだが。



  ◇  ◇  ◇



 幹部たちに話をした後、俺は本部の竜小屋に向かった。


「あ、どうもー」

『どうも……雷、いますか?』

「はい。元気ですよー」


 小屋には辺境の竜小屋とは比べ物にならないくらいの竜とスタッフがいて、賑やかだった。それを少し羨ましいと思うが、辺境にこれが欲しいとは思わない。


「こちらです」


 俺はそのスタッフの一人に案内され、雷の過ごすスペースに向かう。


 その途中、通る廊下に面したスペースにいた竜たちが興味津々な様子で俺のことを見て来ているのを感じる。


『なんか、落ち着かない子が多いんですか?』

「珍しいんですよ、剣士さんが来るなんて」

『まあ、そうですよね……』


 本部の竜なんてエリートばかりだと思う。でも、剣士は自分の竜に会いに来たりしないのかと思うと、少し寂しい気持ちになる。


「本当はもっと来てほしいんですけどね。自分の竜を持っている剣士なんて、忙しい上級の剣士たちばかりなので」

『そうなんですか』


 そりゃそうか。人が多い本部の剣士全員に竜を持たせるなんて無理な話だ。それに、これだけ世話をする人たちや環境が揃っていれば、わざわざ来る理由も無い。元々竜は何もしなくても飛んでくれるくらいには訓練されているのだから、関係を築く必要もなさそうだし。


「ここです」


 話をしながら雷のいる場所に着くと、スタッフの人はすぐに仕事に戻って行った。


『雷、』

「く、くぅーっ!」


 俺が声をかけながら近付くと、雷はすぐに甘えてきた。


『今日は本当にありがとう。今日からしばらく、ここで暮らしてもらうことになるけど、ここは設備もしっかりしてるし、俺も顔出すから、安心して休んでてほしい。途中で医者かなんかに診てもらう機会があると思うけど、ちゃんと担当の人に従って……まあ、雷なら大丈夫か』

「がうっ」


 雷は新しい場所でも大丈夫そうだった。


『じゃあ、またな』


 俺は雷の様子を確認し終えると、そう言って竜小屋を後にした。

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