第九十六話 報告
辺境剣士団に全員が戻ると、早速さっき起こったことについての報告が始まる。
「えー、今回は国境中央部、古代神殿付近にて侵攻がありました。規模としては最低でもゴブリンが約五十、そして騎士が一人、少なくともこれ以上はいたと思われます」
兄ちゃんが主に報告をする。
「被害状況は?」
質問するのはリーダーだった。
「それが、被害はほとんどありませんでした。しいて言うなら、抵抗した際に竜が攻撃した炎で焼けた地面……でしょうか。ほとんど草花も無い場所だったため、神殿含め被害はほとんどありません」
確かに、森の中で開けた場所で神殿の近くだったということも関係しているのか、周りに比べて地面の草花はほとんど無かったように思える。
しかも、あまり直接攻撃をされたという印象も無い。唯一言うならば、あのウルフくらいか。
「騎士の姿は覚えているか?」
「いえ。姿は見ていません」
「……なら、なぜ騎士がいたと言える?」
「使い魔です。騎士だけが持つ使い魔である、ダークブラックウルフ。そのウルフが襲ってきました」
「なるほど……ダークブラックウルフか……」
リーダーは何か考え込むように名前を呟く。
「能力は?」
「わかりませんが、今前に出てくるのなら旧型はあり得ないでしょう。おそらく確認されている中の最新型、もしくは新型でしょう。形状は前者でした」
「何も能力を使わなかったのか……?」
「その前に撤退していったので」
「そうか……」
今回は、ウルフについては何もわからないだろう。
「このことは私から本部に報告しておく。今日夜勤シフトの人は引き続き監視を頼む。他は部屋に戻ってもいい。もちろん、いてくれてもいいが……そこは任せる」
リーダーがそう言い、報告会を終わらせた。
その後ほとんどの人が管制室を出て行き、残ったのは夜勤シフトだった俺と兄ちゃん、そしてリーダーだけだった。
リーダーは報告書のために徹夜でもするつもりなのだろう。
リーダーって大変だな……と呑気なことを思っていると、兄ちゃんが仕事しろと言わんばかりに手招きしてくる。
俺は部屋の中央にある、モニターの真ん前にある椅子に座る兄ちゃんの隣の椅子に座り、部屋のあちこちにいくつも並べられているモニターを眺める。
「あ、ウルフの話だよね」
『え、あ、うん』
忘れていたわけではないが、急に言われたせいか変な反応をしてしまった。
「正式名称はダークブラックウルフ。騎士がそう言ってたから、そう呼ばれるようになった。確か、意味は黒い狼って意味だったかな」
そのままだな。
「それで、能力だけど。まず、何も持たない素の状態で戦っても、普通の剣士なら歯が立たない。力も強いし、一撃に威力が無いと皮も切れない」
フィジカルから強いのか……
「そして、ウルフは大きな剣を持っている。持っているというか、どこかから取り出すっていうか、その場で作り出すっていうか……何なのかはわかってないけど、腕力も含めてその剣は一振りでも致命傷になりかねない」
大きな剣……あの体長からして、三メートルほどはあるのだろうか。
「さらに、ウルフに剣を入れられたとしても、そこから出た体液……血液のようなものに触れたら終わりだ」
『終わり?』
「終わりは言い過ぎかもしれないが、その血液には毒が含まれている」
『毒?』
「ああ。少量なら回るまで時間がかかるから治療も間に合うが、多くに触れれば一瞬で死ぬ可能性だってある」
アイツの中には、そんなものが流れているのか……
「これはウルフに限らずあり得る能力だが、人工的にそれを作り出すことができるって言うんだから、その時は驚いた」
確かに、人造の悪性魔物って言ってたな……
それを作り出す力が隣の国にはあるってことか。なんだか、少し気になってしまう。
「今わかってることはそれくらいだが、この情報もおそらく最新ではない」
『そうなんだ』
「弱い騎士に最新の使い魔を持たせるなんて考えにくいだろ?」
『確かに』
こっちに捕まるくらいの騎士なら、そんなもんか。
『その騎士って、どうなったの?』
「それ聞くかぁ……」
『ダメ?』
「別にいいけど、ショックは受けるなよ」
『うん』
なんとなく、その先は予想できる。
「死んだ。学院のミッションでね」
『学院のミッション?』
「文人もやっただろ? よくわかんないところに飛ばされて、ドラゴンとかと戦ったやつ。二年の」
『あー』
あの、死神と戦ったやつか。あれは酷かったな……じゃなくて、その中に騎士なんかもいたのか……いたな。確か、竜喜のところだったか……?
「その時に、一枝聖彩が仕留めた」
『一枝聖彩が……?』
竜喜のところではなかったようだ。確か、聖彩は怪我をしたという話があったような……でも、剣の実力はかなりのものだから、仕留めたことに驚きはない。
「あの子、強いね。入れ替わりの決戦の時にも見たけど、実力はある。さすが一枝家」
『うん。実力はあると思うよ。防御型の流派なのに、スピードもあって』
「そうだな」
まあ、今はそんなことはどうでもいい。
『……本当の騎士はもっと強いんでしょ?』
「ウルフも含めて、な」
『ふーん……』
相手の強さへの不安と、自分の強さへの自信が混ざり合い、なんとも言えない気分になる。




